パパさんと娘さんの日常会話
「そりゃそうだ」
父親は自分の娘を見てにやっと笑った。
「今のはパパが作った格言なんだから」
「えーっ、すると、今までの話は……」
「そうです、パパの作り話です」
「もう、パパのバカ!」
「あれ、怒ってる?こういう話が聞きたかったんだろ?ミコトも、そしてケイジ君も」
「作り話を聞いても、どうしようもないでしょ?」
「そんなことはない。よくできた作り話はできの悪い本当の話より心に訴えるものさ」
「できの悪い話って、例えばどんな?」
「うん、例えば、そうだね、興味を持たれてもいないのに自分のことばかりの話とか」
「他には?」
「ハハハ、始まったよ、ミコトの“他には?”が」
「いいじゃない、聞かせてくれたって」
「いや、いいんだよ、それで。好奇心旺盛なのは、とてもいいことだ。ただ、今はちょっと思いつかないが……そうだね、日々繰り返される日常の話とか」
「え?何それ?」
「毎日、誰もが、朝起きて学校や仕事場に行って、お昼を食べて、また仕事して、夕方になったら家に帰る、そういう生活をしてるものさ。最近は、夜中や朝早く仕事をしている人も増えたけど。そんな誰もが過ごす日常の話をされても興味が起きないものさ。日常生活のなかで、何か変わったコトを話に織り込まないと、他の人は聞いてくれないよ」
「そうかなあ?」
父親の話をじっと聞いていた娘は間延びした声で返事した。父親は、腕を組んで右手人差し指でコメカミを叩いている娘を見ていた。それは何かを考えている時の娘の仕草の一つだ。返事をしてくれるのにはもうしばらくかかるかな、と父親は思っていたが、割と早めに反応があった。
「いまね、学校で友達と喋っているところを思い出していたの。結構、変わったことがなくったって話したり聞いたりしてるよ」
なるほど、今の仕草は何かを思い出している時の動作か。父親は記憶の引き出しにある自分の娘のコーナーに、今の動作を{思い出し}と名前を付けてしまいこんだ。いつか役に立つ日が来ることを信じながら。
「ミコトは良い友達を持ってるね」
「うん、そう思うよ」
「良い友達は、取り留めのない話をしたって聞いてくれるからね。さて、ミコトはケイジ君の良き友人でいられるか?あるいはケイジ君はミコトの良き友人でいられるか?」
「アイツ不思議なモノ好きって言ってたから、取り留めもない話は嫌いかもしれない」
「それはミコトの思い過ごしかもしれないよ。ミコトだって不思議なモノ好きなのに、他愛もない話をしたりするだろ?もっとよく話し合ってごらん。ところで」
と、急に姿勢を正した父親は自分の娘に向き直った。