パパさんは普通の「不思議」を普通に話す
「顔は合格、運動神経に難ありってところ」
「お、ミコトから及第点をもらえるとは、ヤナイ君は相当気に入られたかな?」
「むしろパパが気に入るかもよ?」
「ほう、どうしてそう思うの?」
「アイツ、不思議なモノが大好きなんだって」
ミコトは、母親には言わなかったことを父親には打ち明けた。
「ウチの神社、不思議なんだって、いろいろ知りたがってたよ。ママがいたから、ご飯のときは話さなかったけど」
「話の途中だったね、そうか、不思議なコトが好きだから、ウチの神社も好きなんだ」
「ね、パパと気が合いそうでしょ?」
「不思議なコトが好きっていうのはママには話した?」
「話さなかったよ」
「それは賢明だね。ママに話したら、バカなこと言ってないんで早くご飯食べなさい、って言われただろうね」
父親は、一部母親の口調を使って娘に言って聞かせた。
「ウチの鳥居は不思議な形だって言ってた」
「はは、不思議な形か。ミコト、鳥居は何のために存在するか、わかるかい?」
「神社のウチとソトを分けるため?」
「ただ分けるだけじゃないぞ、鳥居はな、この世とあの世を結ぶ門の様な役割を果たしているのさ」
「へー、それでそれで?」
「お、食いついてきたね。それで、人が出入りする大きな仕切りの上に、もう一つ、小さな仕切りがあるだろう?あの二つの仕切りから霊気が出入りしてるんだ」
「レーキ?」
「神聖なエネルギーということかな?それで、霊気の出入りの大きい場所、つまりパワースポットって呼ばれるんだけどね、そういうところの鳥居では、霊気が漏れすぎないように小さい仕切りのところにフタをするんだ」
「フタ?」
「そう、フタさ。本当は額に約束の束って書いて額束、ガクツカっていうんだけど」
「ねえ、ちょっと聞いていい?どうして仕切りが二つないと、その霊気が出入りできないの?一つで十分じゃない?」
「それは、お醤油の入れ物と同じだ、一方から空気が入らないともう一方から醤油が出てこないのと同じだ。それとも鼻の穴が二つ開いている方の例えが分かり易かったかな?」
「じゃあ、この世からあの世に出ていくモノって何?」
「さあ、何だろうねえ?あの世から入ってくるモノが霊気だから、この世から出ていくモノは元気とか、かな。ほら、ヤナイ君がいってただろう?ウチの鳥居が変だっていうのはこの額束がないことをいってるんじゃないかな?」
「ん?すると、ウチの神社はレーキに満ち溢れているわけ?」
「そこでママが鳥居に向かって毎日お祈りをしてるのさ」
「パパじゃなくって?」
「パパには霊感がないからね」
「じゃあ、ママはレーキに満ちあふれてるの?」
「そういうことだな。おっと、これはママには内緒だよ」
「ねえ、パパ。私にはそのレーキはあるのかな?」
「さあ、どうかな?ミコトはママそっくりだけど、髪の色が違うからなあ、キはケに宿るって言うし」
「そんなコトワザ、聞いたことないよ」