日野家の食卓①
「だたいまー」
ミコトは猫を小脇に抱え、玄関から台所に直行した。
「お帰り、あらおスミちゃんもいっしょなの?」
「うん、今日の晩御飯は何?」
「ふふ、今日は山菜いっぱい取れたから、山菜ご飯に山菜のてんぷら、海のものとして浅蜊のお味噌汁、ワカメの酢の物、ヒジキの煮つけ、その他豆腐のからしマヨネーズ納豆和え、マッシュポテトのごまだれホウレンソウ添えであります。早く手を洗ってらっしゃい。それから、居間にパパがいるから、ご飯出来たよって呼んできて」
最後二つは創作料理だな、今回の出来栄えはどうだろうかと思いつつ、惰性で返事をした。
「あ、そうそう、ミコト、新しい眼鏡、今度はちゃんと受け取ってきたの?」
「うん、ちゃんと」
と言って猫を抱えていない方の小脇に、店で貰ったメガネケース入り紙バッグを見せた。
「じゃ、おスミちゃんを置いて、手を洗って、そしてパパを呼んでくる!」
「はーい」
台所を背にしたミコトは背後で猫に文句を言う母親の声を聞いた。
「全くあんたって子は、お昼すぎてから今までどこにいたの?おユキさんはもうとっくにご飯済ませましたよ」
黒い若猫は甘えた声で何度も鳴いていた。
「パパー、ご飯ですよー」
ミコトが居間のドアを開けた時、父親はテレビを見ていた。
「……今年最大の天体ショーとなるでしょう。週末が楽しみですね。では続いて経済情報です。今日の為替と株は……」
「パパ、ご飯出来たよ、食べに行こうよ」
「おお、ご飯出来たか」
父親は立ち上がるとテレビを消して、もう一度伸びをした。
「もう夕方なのに、どうしてそんなに元気なんだ?」
居間を出ながら父親は自分の娘に尋ねた。
「だってー、お腹空いてるんだもん」
「あれれ?三時のおやつにぼた餅たらふく食べたんじゃなかったっけ?」
ミコトが返事をしようとしたその時、先に腹の虫がミコトの代わりに返事をしたのだった。それはそれは大きい音だったので、容易に父親もそれを聞くことができた。
「そうか、わかった。早く台所へ行こうか」
父親に腹の虫を聞かれても全然恥ずかしくない、だって家族なんだもん。
「そう言えば」
ミコトは話題を変えた。
「さっき境内で朝パパが言ってた子を見かけたよ」
「ほう、それでどうだった?話はしてみたのかい?」
台所に入り、話しながら二人はいつもの自分の席に着いた。
「うん、学校でちょっと、境内でちょっと」
「それで、どんな子だった?」
「あなた、今日お酒はどうしますか?」
「ああ、今日はまだ仕事が残っているから止めておくよ」
「わかりました。それで誰の話をしてるんですか?」
話をしながらも母親の手は止まらない。ご飯をよそおいながら母親が会話に入って来た。