ミコト、倒れる・・・
ミコトのつぶやきは近くにいた柳井圭治にも聞こえなかった。ただ、佇まいを凛としたミコトの姿勢には感銘を受けたらしく、黙ってミコトのやることを見ていた。
埴輪からの声が終わり、ミコトはその場に立ち尽くす。やれやれ、平地でのあのヘンテコな踊りに比べたらはるかにましだわ、というよりこれも十分に変だけど。ああ、もう全身だるくなってきちゃったなあ。
”ねえ、これで終わり?本当に麓の方に”プゥの力は届いているの?”
”プゥの力を侮るなかれ。嘘だと思うなら麓まで行ってみるがよい”
”面倒だからいかないけど、これで何も変わってなければ、私、ただの変な人だよ”
”案ずるな、ヒノミコトよ。われらの力をを見たであろう”
”見せてもらったっけ?私、ペィちゃんのしか見てないと思うけど”
”拙者の力はわかりやすいでござるからな”
”せめて病気が治るところを見てればねぇ……”
”病になる所ならご覧にいれようか?ヒノミコト様”
”病気になるところって…駄目だよ!ケイジに変なことしたら!”
”察しがいいでござるな、ヒノミコト殿”
”そのくらいわかるよ。この場にいる人を病にするつもりなんでしょ?私以外だとあと一人しかいなじゃない”
身動きをしないミコトを見つめていた柳井圭治であったが、さすがに心配になったのか声をかけてくる。
「日野さん?ちょっと?日野さん?」
柳井圭治の掛け声にミコトはようやく動き出す。
「あんた、不思議なモノ好きって言ってたわよね、前に」
「うん、だけど埴輪は別に不思議でもなんでもないよ」
「埴輪って何のために作られたんだっけ?」
「えーと、確か古代の権力者が死んだときの埋葬品として作られたんじゃなかったっけ?死んだ後もその人がさびしくならないようにって。ん?違ったかな?死んだ後、その人を守るように、だったっけ?」
「この埴輪、いっしょにいてて何から守ってくれると思う?」
「これは……思わないなあ、ハハ。寂しくはないだろうけどね」
「私、他にも理由が合うと思うの。それは誰かを祝ったり呪ったりする対象として作られたんじゃないかって」
「なるほど、神社の子にふさわしい意見だね」
「それで沢山の種類を作ったんだ。ここにあるのはそのうちのいくつか」
「さっき病気の元とかなんとかいってたけど」
「さっき手に入れたのが病気の元を作ってるの。それでその作った病気を広める奴、治す奴、、病気を憶えておく奴といろいろあるの」
「しかし、それにしてもなんかひどく単純な作りだなあ。ちょっと見せてよ」
柳井圭治は、ミコトから埴輪の一体を受け取るとその顔を凝視した。
”そんなに見つめちゃいやでござる”
”あら?あなた自分では見れないんじゃないの?”
”そう、拙者ヒノミコト殿の目を通じて見てるでござるよ。拙者の見ているのものもヒノミコト殿に見せられるでござる、そら!”
換え声とともに、ミコトの目の前に少年の顔が大きく映った。いつも見慣れている距離とは全然違う、息使いまで聞こえてきそうだ。真剣な顔で埴輪を見つめている。実際は、柳井圭治は埴輪を見つめているのだが、今、ミコトが見ているのは埴輪が見ている写し世である。あれえ?このシーン、どこかで見たような……ミコトは眩暈を覚える中で必死に似た映像を探していた。ああ、そうだ、先日見たテレビドラマのワンシーンだ。あのシーンは主人公がヒロインにキスをする所だった。柳井圭治の引き締まった口元を見つめるミコト。あれ?急に空が見えるぞ?
「日野さん!ちょっと日野さん!」
柳井圭治の呼びかける声が遠くなっていく。あれ?私、どうしたんだろう?宙に浮いている感じ。ミコトはそのまま仰向けに倒れていった。上体が倒れそうになった時点で柳井圭治がそれに気付き、ミコトを受け止める。
「日野さん!しっかりして!」
ミコトの目の前に先ほどの映像が、今度は現実になってやってきた。だけど、現実の方がもっといいわね…そんなことを思いながらミコトの意識はどこかへと消えていった。