埴輪、登場⑤
「これ、埴輪のパピプペポっていって、このうちの一体が病気をつくりだす役目を司ってるの。あんたこういうの、どこかこの辺で見たことない?」
少年はミコトに突き付けられた埴輪を見つめた。
「この形……形は違うけど、これっぽいものなら知ってるよ」
「えっ?どこで見たの?」
「リフティングの練習をして、夕日がだいぶ落ちててもう帰ろうかなって思った時、ふと鳥居の影を見たらこんな形の影があったんだ。それで鳥居の上を見たら、こんなのが乗っかってたよ」
「どの鳥居?」
「ああ、入口の奴。一緒に見に行こうか?」
二人は駐車場を出て神社の境内の入り口にやってきた。
「ほら。鳥居の一番上の方にちょこんと乗ってるの、見える?あれじゃないかな?日野さんの言ってるのって」
見ると確かにそれらしきものが鳥居のてっぺんに乗っている。丁度鳥居が山里の風の通り道になっていて、そこなら確かに病を風邪に乗せることもできるだろう。母親の病気の原因もピがここにあったのなら納得がいく。母親が境内にいるときに、ピが自分の”仕事”を全うしたとすれば、それが母親が風邪を引いた原因だろう。手の形はパと逆で両手を下向きに広げている。
”ちょっと、あんたが埴輪のピィなの?”
埴輪は何も答えない。
”ピィの兄者、拙者もいるでござる。返事を返されよ、ピィの兄者!”
”ああ、ぺィ、そこにいるの?今私に話しかけてきたのは誰?”
”今のはヒノミコト殿といって我らを集めている方でござる。我らはずっと兄者を探していたでござる。この方なら我らを祀ってくださるから安心するでござるよ”
”あんた、いつからそこにいたの?私、全然気づかなかったんだけど?ちょっと、ソナタ?あなたも気がつかなかったの?”
”わらわはそなたの声にのみ応ずることができる、そう前にも申したはずじゃ、忘れたのか?”
”その声は姉上ですか?姉上もここにおられるのか。私はここに着いて、日が巡ること早十日。私の力を二度も使ってしまった。ああ、私の力のなんと罪深きかな!これでまた多くの命が病に苦しむのか!”
”わかってるなら止めればいいじゃない”
”ヒノミコト殿ー、もうご理解いただけたと思っていたが?我らは我らの働きを自分では止められないのでござる。それは、命が命を食わないではいられないのと同じなのでござるよ。特に、ピィの兄者は自分の力を呪っているのでござる。悲しいモノでござるよ。自分の存在を呪わなければいけないというのは”
”でもそのためにパ、があるんでしょう?さあ、回収するわよ”
「さあ、回収するわよ」
「あれ、回収しちゃうんだ。わざわざあそこに置いてるものだと思っていた」
「呑気なこと言ってないで、手伝ってよ、あれがあんたんちの家庭内不和の原因なんだから」
「えー、あれが?なんでまた?」
「平たく言うと、アレが病気の元を作っているの。で、あそこにあると、あそこ風の通り道なので病気が広まる恐れがあるの。現に広まってるしね。ウチのママも、アレが原因じゃないかって、私思ってるの」
「えー、埴輪だよ、ただの。だけど、鳥居が風の通り道になってるっていうのはその通りかも。でも待てよ?日野さんの言うとおりだとすると、そうすると美鈴さんの罹った病気は風に乗って家まで来ないといけないんだけど、ウチの人、誰も風邪引いてないしなあ」
”ぴーぴーぴー、ぴーぴーぴー、ぴーぴーぴー、ぴーぴーぴー、ぴーぴーぴー、ぴーぴーぴー、ぴーぴーぴー、ぴーぴーぴー”
”ま、まずいでござるよ。ピィの兄者が歌いだした”
”今の時間帯なら大丈夫。ほら、風は麓から山へ向かって吹いてるから。谷風っていうのかしらね、こういうの”
”そんな悠長なこと言ってないで”
「あれ?何か聞こえるかな?誰か口笛吹いてるような音が……日野さん聞こえない?」
ミコトはすっとぼけて返事した。
「何も聞こえないけど?手伝ってくれるの?くれないの?」
「手伝うけど、何かご褒美が欲しいなあ。そうだ、リフティングの練習に付き合ってよ、お昼食べてからでいいからさ」
ミコトは、渋々の態で承諾した。本当は一緒に居れて嬉しいくせに、変なところで意固地になるミコトであった。