カラスのかあくろう
二人はカラスを見失わないように、かつカラスに見つからないように物陰に隠れながらあとを付けていく。まるきゅーさんいち。カラス、ミコト司令官の思惑通り餌に食らいつき、餌を巣に運ばんとす。ミコトは埴輪のペィに呼びかけることも忘れない。
”ちょっと、ペィ?聞こえてる?ちゃんとお願いしたの?”
”言われた通り、お願いしたでござるよ。だから、先ほどこの鳥は黒きものも食べてたでござろう?我の願いを聞いてくれた証拠でござるよ”
”それで、巣まで案内してくれるって?”
”もちろんでござる。拙者にこんな糸着けなくても良かったのに”
”もう一つ確認したいんだけど?”
”なんでござるか?”
”ちゃんと、あなたの兄弟。巣にいるんでしょうね?”
”ちゃんと聞いたでござるよ。我に似たものがあると言っていたでござる”
”ならいいや。あとは頑張って銜えられてちょうだい”
”ヒノミコト殿!この鳥からお願いされたでござるが、さっきの黒いモノ、もっと持ってたらくれないか、と言ってるでござるが?なんでも前の日の雨で食いものにありつけなかったらしいでござるよ、このカラス殿は”
”ちゃんと案内してくれて、あんたの兄弟確保できたらお礼にあげる、って伝えてよ。それと、カラス殿っていうのは変だなあ。私が名前を付けてあげる”
ミコトはしばらく間をおいた後、口を開いた。
「かあくろう……」
荒木絵里子にとっては、しばらくカラスを追いかけて黙っていたミコトが口を聞いたのだ。驚くのも無理はない。
「え?何?今、かあくろうって聞こえたけど?」
「ああ、うん、あのカラスに名前を付けたの。かあくろうって」
「かあ、は鳴き声のカアから、くろうっていうのはカラスを英語でクロウっていうから付けたんだね」
「いや、英語の名前は知らなかったよ。エリコちゃん物知りだね」
「そうなの?それじゃ私は飛んだ早とちりしたね。かあくろうか、どうしてそんな名前にしたの?」
「かあ、は鳴き声で合ってるんだけど、くろうは羽の色が黒いからクロウにしたの」
「ミコトちゃんちの黒猫、クロっていう名前じゃなかったよね?」
「うん、オスミちゃんっていうんだけど、これウチのママが名付けたの」
「ミコトちゃんちのお母さん、顔はミコトちゃんにそっくりなのに名前の付け方は違うね」
「名前の付け方って人それぞれだね。あ、飛んでいったよ。追わないと!」
まるきゅうごーれい。ミコト司令官、烏に名をかあくろうと命名。
”ほらほら、嬢ちゃん達、ちゃんと付いておいで、って言ってるでござるよ。かあくろう殿も”
”解説はいらないから!”
ミコト達が付いてこれるように、カラスは屋根から屋根、電柱から電柱に飛び渡りながら山口真央の家から離れていく。
「かあくろうの奴、自分の巣へ案内しようとしているみたいだね。このままいくと私の家までいっちゃうな」
荒木恵理子の言った通り、カラスは荒木邸まで来ると、動くのを止めた。そして辺りをキョロキョロ見回すと背の高い木の木陰の中に消えた。
「エリコちゃん、ここって…」
「うん、私んちだね…」
二人とも無言で立ち尽くす。やや間を置いてミコトが尋ねる。
「エリコちゃんちで飼ってたりはしないよね?」
「……飼ってない、と思う……とりあえず、家入る?二階が私の部屋になるんだけど、そこから巣が見えるかも?」
「…そうだね」
ひとまるまるさん。かあくろう、荒木邸へ潜入す。