新技、炸裂!
「カラスって、なんか集団でいるでしょう?でも一昨日見たカラスって一匹だけだったの。あいつ、仲間いるのかな?」
「どうしたの?突然。カラスになったつもりで何かを考え付いた?」
「エリコちゃん、夕方にはこの辺でカラス見るって言ってたでしょ?鳥って夜は目が見えないから夕方には巣に戻るんじゃなかったっけ?」
「そうだろうね」
「ということは、日中はこの辺にいないのかなと思って。どこか友達の所に行ってるのかなって思ったの」
「へえ、それで?」
「それでね。カラスをこっちに呼び寄せるために、カラスの鳴き声をマネしようと思うんだけど、どうかな?」
「うん、悪くないと思うけど、ミコトちゃん、カラスの鳴き声のまねってできるの?」
「やったことないけど、やってみるよ」
ミコトはすっくと立ち上がり、息を大きく吸い込んだ。あ、あ、ア、アァ、アァー、アアァー。ミコトの声は徐々にでかくなり、四回ほど鳴いたら遠くまで通り抜けるくらいの大きさになった。
「ちょっ、ミコトちゃん!ちょっと待って。鳴くのやめて!」
「どうしたの?」
「いやいや、あんまりでかい声だったから。真央ちゃんち、人いないよね?」
「うん、ここに着いたときにチャイム押してみたの。誰も出なかったから、大丈夫だと思って」
「それにしても、声でかかったよね。ひっくり返るかと思ったよ」
「うん、あのくらい大きくしないと遠くまで届かないかと思って」
「いや、驚いた。ミコトちゃんにこんな特技があったとは。本物そっくりだったよ。ん?なんか聞こえない?」
二人は喋るのを止め耳を澄ませた。遠くの方で、確かにァァというカラスの鳴き声が聞こえている。
「やったね、ミコトちゃん!返事が返って来てるよ」
「自分でもびっくりだよ!あとは慎重にこちらに呼び寄せて、アレを見つけて貰わないと…」
「もう一回、鳴いてみてよ。今度はボリュームを小さくしてさ」
「そうだね、やってみる」
もう一度、ミコトはカラスの鳴き声を真似てみる。今度は音量をすこし小さくして、三度鳴いてみた。そのあと黙って耳を澄ますと、やはりカラスの鳴き声がする。徐々に近づいて来ているのがわかる。荒木恵理子がメモを取る。まるきゅーにーごー。ミコト司令官、烏の鳴き真似をし、呼び寄せることに成功。
「だいぶ近づいて来てるね」
荒木恵理子が声を潜ませた。確かに友人のいうとおり、ミコトにも徐々にカラスの鳴き声がすぐそこまで近づいてきているように聞こえる。
「ほら!あれ!診療所の屋根の所にいるよ」
ささやき声でミコトに耳打ちする荒木恵理子。ささやき声にささやき声で対応するミコト。
「きょろきょろしてるね。声の主はどこにいる?って探しているみたい。あ、降りてきたよ!埴輪の回り、うろついている」
きちんと埴輪のペィはカラスを説得しているのだろうか?ミコトは不安になったが、こうなった以上任せるしかない。息をのんでカラスの行動を見つめるミコト達であった。やってきたカラスはただ一羽であった。カラスはペイの回りを用心深く歩き回っていたが、埴輪の横にある黒い物体を啄ばんだ。
「ミコトちゃん、チョコを食べたよ、あいつ」
「あとは、埴輪を銜えて持っていくかどうかだね。それにしてもチョコ食べるのにやたらと時間をかけるなあ。チョコを味わってるのかしら?」
「あいつらに味覚なんてあるのかな?あ、銜えたよ、埴輪!」
「わかってる。それじゃあ見失わないように、走る準備するね」
「えー走るの?」
「大丈夫。エリコちゃんはあとからゆっくりきて。私が走って追いかけるから。そら、カラス飛んだよ!見失わないようにね!」
カラスが屋根の高さまで羽ばたくのを見計らって、ミコト達も山口邸の塀から出てきた。
「さあ。追いかけよう!」