カラスを待ちわびて
「……餌で釣ろうか?」
「餌?餌はその埴輪なんじゃないの?」
「いや、本物の餌。チョコレート持ってきたからそれを脇に置いてくの。それで見つけてくれればいいけど。とにかくやって見よう」
ミコト達は辺りを見回し、本日休日となっている診療所の駐車場に紐の付いた埴輪と遠足の時に余ったドレミチョコを置いて、自分たちは誰もいない山口真央の家の塀のところで見張ることにした。
「これでよし、と。あとはしばらく待たなきゃだめだね」
そうミコトは荒木絵里子の方を振り向いた。見ると、友人は肩にかけていたポシェットからかさこそと何かを採りだした。
「何してるの、エリコちゃん?」
「うん、何をしたか忘れないようにメモをとっておこうと思って。まるきゅーまるごーミコト司令官、チョコを餌にしてカラスを呼び込もうと画策、診療所脇の駐車場にて罠を張る」
「うわあ、そんな感じでメモするんだ、参ったなあ」
「大丈夫大丈夫、ミコトちゃんは普通にしてればいいから。それにしても、どのくらい待てばいいのかねえ?長期戦になるのかなあ?」
「どうだろうね?」
二人はしばらくの間、誰もいない他人の家の敷地内でしゃがんで待った。カラスの気配はまるでない。二人は退屈になって話をしだす。
「ねえ、エリコちゃん、藍色アイちゃんちででね、アイちゃんに私、ジャガイモみたいって言われたの憶えてる?」
「ああ、言われてたね、そんなこと。それがどうしたの?」
「エリコちゃんなら私のこと、どの野菜に例える?」
「うわあ、でたよ、ミコトちゃんの例え話!何?今度は野菜に?私が?ミコトちゃんを例えると?どんな野菜かって?」
「うん、あのあとカズミちゃんちに行って、同じこと聞いてみたの」
「そしたらなんだって?」
「まずエリコちゃんの意見を聞きたいな?先入観なしで聞いてみたいよ」
「そうだねえ、私だったらミコトちゃんを野菜に例えると……カボチャかな?」
「カボチャ……どうしてそうなるの?」
「うん…カボチャは焼いても煮ても甘くてほっこりおいしいし。見ためと中身が違うっていうのもあるかな。カボチャは、ほらあんなごつくってずっしりしてるけど割ってみると中身はまっ黄っ黄でしょ?ミコトちゃんも見た目こんなに可愛いのに変な趣味してるじゃない?見た目と中身のバランスが変だっていうところが一緒だと思って」
「そうかあ、カボチャかあ」
「カズミちゃんはミコトちゃんを何に例えたの?」
「カズミちゃんからは、私は玉ねぎだって言われた」
「玉ねぎか、してそのココロは?」
「煮て良し焼いて良しっていうのは一緒だけど、台所に必ず備えておきたい一品だって言ってた」
「それで、自分では何に例えるの?」
「花の時もそうだったけど、自分では自分を例えられないよ。強いて言えば、ピーマン以外なら何でもいいって思っている」
「私のことは何に例える?」
「エリコちゃんは、そうだねえ?ダイコンかな?」
「ダイコン!まさか足が大根みたい、から来てるのでは?」
「違うよ。ダイコンこそ煮て良し焼いて良し生で良し、漬物にして良し。どんな調理にも対応する野菜だと思うの」
「あんまり主役になれないしね?」
「おでんは大根が主役じゃない?」
「おでんは玉子・こんにゃく・練り物が主役だと思うけど?」
「じゃあふろふき大根はどう?あれなら立派な主役じゃない?」
「あんまり出てこないなあ、それ。おいしいけどね。まあいいわ、脇役だけど愛されるんなら」
荒木恵理子はやれやれといった感じで地べたに座った。しばらく無言の間が続く。やはりカラスの気配はない。