ようこそ、ミコトクラブへ
ミコト達は、おのおのプリントを片づけると立ち上がり部屋を出た。途中、台所によって宮崎母に挨拶をする。宮崎母は丁度夕食の準備をしていた。
「今日はお世話になりました。昼ごはんおいしかったです」
「あら、もう帰るの?もう宿題は終わったんでしょ?もう少しゆっくりしていったら」
「夕方から雨が降るそうだから、ミコトちゃんは早めに帰るって」
「そう?それじゃ今度はお勉強じゃなくって遊びに来てね。お肉たくさん用意しちゃうから」
「はい、ありがとうございます。それじゃ、失礼します」
ミコト達はぺこりと頭を下げて踵を返した。玄関で靴を履いて、靴を履かない人に挨拶をする。
「今日はお疲れ様。それじゃあ連休中気を付けて」
「みんなも気を付けて帰ってね。特にミコトちゃんは帰り道が遠いから。寄っていくんでしょ?カズミちゃんちとラブリーアイちゃんちに?」
「うん、そのつもり。それじゃあね、バイバイ」
宮崎邸を出て、三人は診療所までいっしょに歩く。
「ねえ、エリコちゃん。この辺ってカラスが多いの?」
急に変な質問された荒木恵理子は、腕組みをして首を左右に捻って答えた。
「突然の質問だね。それにマオちゃんじゃなくって私に振るんだ、その質問。どうしてそんなことに興味があるの?」
「マオちゃんはそういうことに関心がなさそうだから」
「そうそう、どーでもいいってそんなこと。だけどミコトちゃんがどうして突然そんなこと言い出したのかは気になるな」
「んーとね、お昼ご飯を食べた後、私この辺をお散歩してたの。そしたらカラスがいてこっち見て鳴いてて」
「馬鹿にされたー、と思ったとか?」
「うんん、違うの。鳴いた後でどこかへ飛んで行ったんだけど、その時くちばしに、ほら、さっき見せた埴輪を銜えてたの。それで、そのカラス、この辺が縄張りなのかなあって思って」
「それで?そのカラスとっ捕まえようっていうの?」
「いやカラス自体には興味はないんだけど、その銜えていたモノがどうなったかなあと思って。カラスって縄張りがあるんだよね、たしか。巣に持って帰ったのかなあ?」
「カラスがその埴輪を持っていったんじゃないかって思ってるの?カラスはピカピカ光るモノを持っていくんじゃなかったっけ?ミコトちゃんの見間違いじゃない?」
「うん。そうかもしれない」
「二人ともカラスに詳しいんだね」
「いや、これくらいはテレビ番組で流してるでしょ?」
「私は本で読んだことがある」
「ふーん。でも関心があるからその情報が頭に残っているんじゃないの?」
「いや、そこまで言うほど関心はないんだけど」
「関心があるのは埴輪の方なんだよね?でもなんでまたそんなもの集めようと思ったの?」
「実は」
声を潜めるミコト。他の二人はミコトに顔を近づけてナニナニと聞き込む。
「あの埴輪、世界を滅ぼそうとたくらんでるの。だから捕獲してうちで監視しなくっちゃいけないの」
他の二人は息を潜めて聞いていたがこらえきれずに噴き出してしまった。自分で言ったミコトも噴き出してしまった。ひとしきり笑った後、荒木恵理子が笑い涙を拭いながらミコトの肩をたたく。
「ミコトちゃん、小説でも書くつもり?だとしても、もう少し理由をちゃんと作らないと」
「例えばどんな?」
「うーん、そうだね。少女が埴輪を集める理由、全部そろうと願いがかなう、とか?」
「埴輪は魔法をかけられた王子様を助けるためのアイテムだったとか?」
「そうかあ。あんまり面白くなかったかあ」
「で、ホントのところはどうなのよ?」
「いや、大した理由じゃないけど。遠足の日、エリコちゃんとツツジを見てたでしょ?あの時に一つ拾って、帰り道でもまた一つ拾ったの。それで今日も見かけたからこれはもう偶然じゃないな、集めなきゃって思って」
「へえ、そんなことやってたんだ、あの{デス・マーチ}のさなかで」
「運命感じちゃったわけね。あーあ、そんなモノに入れあげるとは!」
「まあ、そういうことで、カラスが持って行っちゃったかもしれないなって思ったの」
「でもさあ、そのカラスのせいだとしてだよ、その埴輪を自分の巣に持っていってたら、どうにもできないじゃない?」
「そうなんだよねえ。せめて巣のありかだけでもわかれば」
ミコトはため息をついた。三人は黙って歩き山口真央の家にたどり着いた。ミコトと荒木恵理子が山口真央を玄関まで見送ろうと山口真央の顔を見る。山口真央は何かいいたそうだった。
「マオちゃんどうしたの?」
山口真央は幾瞬かためらった挙句、口を開いた。
「あのね、ミコトちゃん。私、埴輪には興味がないんだけど、一緒に宿題やってくれたお礼に一つ作戦を教えてあげる」
「作戦?」
「そう、うまくいくかどうかはわからないけど、何のあてもなくて埴輪を探すミコトちゃんがかわいそうなので。やるかやらないかはミコトちゃん次第。ああ、それと断わっておくけど私はやらないから」
「それで、作戦っていうのは?」
「そんな大したものじゃないけど。ミコトちゃん似たような埴輪を持ってたでしょ?もしミコトちゃんの言うとおり、この辺にいるカラスが持っていったとするなら、ミコトちゃんの持っている埴輪も持っていこうとするんじゃない?」
「なるほど!カラスになったつもりで考えたんだね、マオちゃん。これであんたもミコトクラブの仲間入りだ」
変なクラブに入れられた二人が同時に声を発した。
「「何、ミコトクラブって?」」
「ミコトクラブっていうのは、相手の立場に立って考えて何かを言ったりしたりするクラブのことだ」
「そんなの別に普通じゃない?ねえ、ミコトちゃん」
「う、うん、そうだね」