アフターホームワーク
一息ついたところでミコトは山口真央に問いかける。
「マオちゃん、本当に明日っからお出かけるの?天気予報では今晩から雨だって言ってるんだけど?」
ミコトは土偶からの気象情報を天気予報と言い換えて山口真央に聞いてみた。
「雨が怖くってお出かけが止めるとあっちゃ山口真央の名が廃るよね」
「そうそう、学校から外出禁止されようが出かけるものはでかけるよ。そうそう、知ってるミコトちゃん?」
「いや、知らない」
「まだ何も言ってないよ?」
「うん、でもマオちゃんの知っていることは私が知らないことの方が多くって」
このやり取りを聞いた他の二人は噴き出してしまった。
「まあそりゃそうだわな。マオちゃんとミコトちゃんは情報の先端と末端にいるからそうなるよな。で、なんなの?マオちゃんが教えたがっている話って?」
「うん、明日デパートに行くんだけど、そこで連城結城がサイン会開くの、お昼から。知ってる?ミコトちゃん、連城結城だよ」
「うん、それは知ってる。今ドラマやってる人でしょ?」
「なんだ、それは知ってるんだ」
「うん、ラブリーアイちゃんからお教えてもらったの」
「教えてもらうまでは知らなかったりした?」
「うん、ウチは誰もドラマ見る人いなかったから。最近レコーダー買ってもらったからそれでアイちゃんお勧めのを見てるの」
「放送時刻には見てないの?」
「あれ夜の九時からでしょ?いつもだったら寝てる時間なの。次の日の夜八時に見てるの」
「連城結城ってもうすぐ三十くらいじゃない。マオちゃんだったらもっとアイドルの方がお好みだと思っていたよ。ウチの母さんと同じ趣味じゃないか」
荒木恵理子が横から口をはさむ。
「わかってないなあ、エリコちゃん。男の魅力は三十路を過ぎてからだよ」
「おおう、マオちゃんは将来立派なオジサンキラーになりそうだな。それで、サイン会にはいくんかい?」
「エリコちゃんこそ、そんなオジサンが好きそうな駄洒落言ってるじゃない。それにしても楽しみー、他のみんなは連休はどうするの?」
「うーん、学校から外出禁止、なんて言われるとなあ。堂々と外を歩き回れるわけもないし、うちでじっとしておくしかないよなあ」
「カズミちゃんが寝込んでなければお菓子作りできたのにねえ」
「あれ?アイちゃんもカズミちゃんとお菓子作りやってたの?」
「うんそうだよ、ミコトちゃんとはたまたま都合がつかなくってまだ一緒にやったことないけど、今度一緒にやろうよ。ところでミコトちゃんの予定はどうなってるの?」
「うちは神社だから、休みの日は両親あまり休めないし、明日はうちの手伝いだし…」
「明日は雨なんでしょ?雨の日にお参りに来る人っているの?」
「いない……かな?」
「じゃあ休んじゃえばいいのに、雨の日くらい」
「まあそういうわけにもいかないしね。神様は雨の日だからってお休みするわけじゃないし」
「そう言えば、ミコト神社って何を祀っているの?そういう情報が誰からも入ってこないんだけど私だけかな?」
荒木恵理子が周りにいる人に確認する。
「え?ここらに住んでる人も知らないの?」
「前に神社にいた人が麓に住んでいた人達と仲が悪くて神社のことを秘密にしていたっていう話は聞いたことあるけど、本当に何が祭ってあるんだろうね?」
「うーん、ウチのパパも結構調べたんだけど、結局分からなかったんだって」
「それなのにどうして参拝客が来るんだろう?地元の人間もいかないのに」
「それもそうだね。改めて考えると変だなあ」
話題が神社から別に変わっても、ミコトは心に疑問の雲を抱いたままであった。上の空で会話に参加するミコトに対して、宮崎藍が気をまわしてくてた。
「それでどうする?もうプリントの類は終わったし、この辺でお開きにしようか。作文は各自で連休中に片づける。あとはさっき言った通りに来てない人達に見せるってことでいいかな?」
「そうだね。私らはいいけどミコトちゃんちは遠いから早めに切り上げないと。夕方から雨になるっていうし」
「それじゃ散会ということで。ありがとう、ミコトちゃんのおかげで一日で終わったよ」
「いやあ、みんなでやったからだよ、早く終わったのは。それとアイちゃんお部屋貸してくれてありがとう。自分の部屋ぐらいでやってたら狭くって集中できなかったし、ウチの神楽殿でやってたら広すぎてこれまた集中できなかったよ」
「へえ、ミコトちゃんち、神楽殿なんてあるんだ」
ミコトは、内心しまったと思ったが顔にはださず、さらりと流そうとした。神楽の練習を強いていることはみんなには内緒だった。練習、といっても今はただ体捌きや足使いの訓練をしているだけだが。
「うん、先月初めて大掃除をしに入ったの。それまでは境内にはいっても建物の外から見てるだけだったの」
「ふーん。神社には色々あるんだなあ」
この会話はこれだけで終わった。
「さてと。それじゃ、帰りますか」