宿題の出来上がりです
二時間後。午前中と変わらないスピードで、というよりミコトが午前中よりも速く宿題を片付けてたのだが、他の三人があまり進まなかったので見掛け上午前中と同じスピードに見えたのだ。もっともミコトは自分のせいで三人の宿題の進み具合が遅くなったのをわかっていたので、あえてスピードを速めていたのだ。午後三時過ぎにはプリント形式の宿題はすべてが片付いた。
「いやー、終わった終わった。ミコトちゃんのおかげで連休の休み、一日つぶしただけで済んだよ」
「いや、みんなでやったからこんなに早く終わったんだよ。一人でやってたら、結局連休つぶしてると思うな」
「三時過ぎたし、また何か飲むもの持ってくるね」
宮崎藍はお盆にグラスを乗せて部屋を出ていった。
「いやー、これで肩の荷が下りたねえ。あと残っているのは作文だけだね」
「こればっかりはみんなでやるっていうわけにもいかないしねえ。しかし、宮本先生、作文書かせるの好きだよな。毎月一つはお題が出てるよな」
「まあ作文は各自でやるってことで、もう終りでいいかな?」
「そうだね、あとは来れなかった人にどうやって見せようか?」
「リンちゃんなんかに見せなくっていいよ!何にもやってないじゃない。私たちがこんなに苦労してやっとできた宿題なのに!」
「まあ、風邪じゃしょうがないよ。私がリンちゃんとシオリさんに渡してくるよ」
「じゃあ私、ラブリーアイちゃんとカズミちゃんに見せるよ。ってことでマオちゃんはアスナに見せてあげない?」
「やだっ!アスナちゃんは私たちに頼らないでも一人で宿題やれるよ!」
その声に応えたのはドアを開けた宮崎藍であった。
「いいよ、私がアスナちゃんの所に持っていくから。マオちゃんは安心して明日っからのお休み満喫してよ」
「人間関係が見えてくるねえ」
「アイちゃんは誰にでも優しいよね」
「ミコトちゃんだってそうじゃない。だってみんなと話してるでしょう?」
「みんなと話すとどうして優しいって言えるんだろう?」
”みんなと話すとどうして優しいって言えるんだろう?”
”モノに対する優しさとはモノそのものの力を全うできるようにすること。ヒトに対する優しさと通じるものがあるのではないか?”
”ん?どういうこと?”
”ヒトはヒトと話をすることで己自身に気付き、己を知ることになる。己を知るということは己の力を全うすることになるのじゃ、わかるか?”
”……よくわかんない”
「よくわかんない」
「だって、優しい人はみんなに話しかけるんだよ。ミコトちゃん、クラス全員と話しするでしょ?はいこれ、ミコトちゃんの分」
今度の飲み物は再びのカルカルであった。
「ありがとう、アイちゃん。みんなは誰とでも話してるんじゃないの?」
「まあ良く話す人と話さない人がいるのは確かだよね」
「人数少ないからみんな仲良くした方がいいじゃない?」
「まあ、理屈はそうだけどね。感情がそれについていかないんじゃない?その最たる例がアスナちゃんだよな。なんでミコトちゃんにあんなに噛みついてくるんだろう?」
「そりゃあミコトちゃんが来るまでアスナがクラス委員やってたし、同じメガネキャラでかぶっているからじゃない?ほら、近親憎悪ってやつだよ、きっと」
「私ってアスナとキャラかぶってる?全然違うと思ってたけど」
「見た感じはかぶってるんだけど、性能はミコトちゃんの方が上だよね。あ、でも口の悪さではアスナの方が上かな。ミコトちゃんよく我慢してるよね?私だったら絶対言い返すけどなあ」
「私、なんか悪口言われてたっけ?」
ミコト以外の三人は顔を合わせる。そして首をかしげる。本気で言ってるの?という表情だった。
「まあ、そういうところもミコトちゃんの良いところってことで」
「アスナちゃんも、自分が言ってる悪口が空回りしてるって知ったら、さぞやご立腹でしょうなあ」
山口真央が口を手で押さえニシシと笑った。
「いや、わかっているからこそミコトちゃんにはことのほか回転が上がるんじゃないかな?」
「はいはい二人とも、この場にいない人の悪口はここまでにして、せっかく持って来たんだから冷たいうちにどうぞ召し上がれ」
宮崎藍の一言で皆チューチューと渡された飲み物を飲んでいく。