うちとちがうよそ
そんなセリフを口にして、山口真央は腕を伸ばし、上体をテーブルに預けてしまった。荒木恵理子も、山口真央ほど大胆にではないがうつ伏せになってしまった。ミコトは慌てて土偶と埴輪をランドセルに入れようとするが、その前に宮崎藍が手に飲み物の置かれたお盆を持って部屋に戻ってきた。
「あらら、二人ともどうしたの?」
「急に、つかれたーって言い出して伏せってしまったの」
「あれま。ごめんミコトちゃん、コレ、置きたいからテーブルの上のモノどけてくれない?」
ミコトがテーブル上のプリントを片づけ、宮崎藍がそこにお盆を置く。宮崎藍は目敏くテーブル端においてあった土偶を持ち上げミコトに尋ねる。
「これ、ミコトちゃんのでしょ?」
「うん、よくわかるね。家から持ってきたの、みんなに見てもらおうと思って」
変なこと言わないでね、アイちゃん。そう思っていたミコト。
「わかるよ、変だけどかわいいもの。こういうの、好きなんでしょ?こっちはまた、ちっちゃくってカワイイねえ」
”ほら、カワイイって褒められてるわよ、だから歌うのを止めなさい!”
ミコトの脳内で響いていた”歌”はすぐに止んだ。
「大きいのはウチの倉庫においてあったの。小さいのは最近拾ったの。アイちゃん見たことない?こんな感じのモノ」
「うーん、見たことないなあ。見つけたらミコトちゃんにあげるよ。それよりこれでも飲んで、三人とも。疲れた時には甘いものが一番だよ」
宮崎藍が運んで来たものは、青く透きとおったグラスに入った乳白色の飲み物だった。グラスにしずくが付いているのは中に氷が入っていたからだ。
「ミコトちゃん、これ知ってる?カルカルっていうんだよ。飲んだことある?」
「うん、ラブリーアイちゃんちでご馳走になったよ。これ、流行ってるの?」
「やだなあ、ミコトちゃん。カルカルは定番中の定番だよ」
「へえ、そうなの」
埴輪が歌うのを止めたせいか、はたまた定番ドリンクの登場のせいか、伏せっていた二人も顔を上げたと思ったらたちまち上体を起こした。
「ああ、ありがたい。丁度のどが渇いてたところなんだ」
山口真央は、差し出されたグラスを受け取ると、ストローに吸いつきチューチュー吸いだした。荒木恵理子も差し出された物を受け取り、両手でグラスを包んでその冷たさを楽しみながらストローを加えた。
「まあ、ミコトちゃんもどうぞ」
ミコトは礼を言って飲み物を受け取ると皆と同じようにストローを使い中の液体を飲みこんだ。竹下愛の家で飲んだ時よりは少し薄いような気がする。氷が解けて薄まっているのだろうか?のどが渇いている者たちには程よい甘さだった。二口三口飲みこんだところで元気になった山口真央が喋り出す。
「ミコトちゃん、ラブリーアイちゃんちで飲むまでカルカル飲んだことなかったの?」
「うん、ウチはジュースとかお菓子とか買っちゃいけないことになってるの。その他にもお肉食べちゃだめっていうし」
「えっ?お肉だめだった?今、鶏の空揚げ作ってるんだけど?」
「ミコトちゃん、給食でお肉たくさん食べてるじゃない、嘘言っちゃだめだよ」
「あー、ごめん、ちゃんと説明すると、誰かがおもてなしのために出したものは食べてもいいんだけど自分で料理するのはだめだって」
「それじゃ家でお肉を食べたことないの?」
「うん、うちでは食べないね。でもご馳走してくれるんだったら喜んで食べますよ」
「良かったあ、たくさん作ってあるの。ミコトちゃんが食べなかったら余っちゃうところだったよ」
「ちょっとちょっと、あんまりミコトちゃんに食べさせたら、お腹一杯になっちゃって昼から使い物にならなくなるよー」
「大丈夫、そこまで食べないようにするから」
「えー、たくさん食べてってよ。ほら、腹の虫もすごく自己主張しているよ」
「ミコトちゃんの食べる量がどのくらいで満腹になるのかミモノだね」
「私の食事はミセモノではありませんよ」
「私、お昼持ってくるからちょっと待ってて」
「あ、私手伝うよ」