埴輪の力、見せてやる!
ミコトの鶴の一声で皆はふたたびプリントに向かう。しかし、、出だしの二時間とは違い腹が減っていてミコトの集中力は落ち、ミコトの腹が鳴っているので皆のやる気はそがれたのであった。あまりにも頻繁にミコトの腹が鳴るのを見かねた宮崎藍が提案してきた。
「ミコトちゃん、十二時まであと三十分あるけど、もうお昼休みにしない?」
「そうしようよ、さっきから気になって仕方ないんだ、ミコトちゃんの腹の虫」
とは荒木恵理子の言。
「それにしても、近くで聞くと結構大きい音で鳴ってるのね、こんなに大きい音だったっけ?」
と、山口真央が追い打ちをかける。二人とももう完全に休憩に入っている。
「うーん、いつもより早く、大きく鳴ってるみたい。やっぱりお粥が朝食じゃだめかなあ」
「どうして今日はお粥だったの?」
「うん、ウチのママ、三日前から風邪で寝込んじゃって。パパも昨日うつっちゃったみたいで、二人ともダウンしたから、今朝は私が料理つくろうって思って。病人にも食べられるお粥にしたの」
「ミコトちゃんが作ったんだ。で、お味の方はどうだった?」
「うん、普通に食べられたよ」
「お父さん、感激してたんじゃない?愛する娘が俺のために料理を作ってくれたって」
「うん。でも風邪で調子が悪いせいか、反応薄かったよ」
ミコトも手を動かすのを止めていた。それを見届けた宮崎藍は、何も言わずに立ち上がり、部屋を出て行った。しばらくするとまた戻ってきた。
「今朝も診療所まで車で送ってくれたけど、危なっかしい運転だったなあ」
「ミコトちゃん、今日車で送ってもらってきたの?珍しいね。いつもは走って学校に来てるのに。道理で朝会ったときに頭から湯気が出てなかったわけだ」
「私、最近は走って学校に行ってないんだけどなあ。そういうイメージになっちゃってるわけ?」
「なってるなってる。もう茹で立てのジャガイモみたいになってるよ」
「えー?ジャガイモ?」
「まあ私だけ思ってるんだけど」
「アイちゃんちではそんなに茹で立てジャガイモが出てくるの?」
「おやつで、たまに。アツアツの剥きたてジャガイモにバターを乗せて、塩コショウを振ったら、そりゃ
もう、たまらんですよ、ミコトちゃん」
「アイちゃんからそういう話を聞けるとは思わなかったなあ」
「どんなふうに思ってたの?」
「うん、アイちゃんって普段あんまり喋らないじゃない?何考えてるのかなあって」
思ってたの、と言おうとしたとき、またもミコトの腹の虫が自己主張した。
「さっきからすごいね。もう、虫というより動物みたい。ちょっと待ってて、できてるものがないか見てくるから」
宮崎藍は立ち上がり、また部屋を出て行った。宮崎藍が部屋から遠ざかったのを足音で確認してからミコトは部屋に残っている二人に話しかける。
「今日のアイちゃんっていつもと違うねよ?口数も多いし、やけに盛り上がってるっていうか、落ち着きがなくなってるっていうか」
「ミコトちゃんがウチに来たんでテンションがハイになってるんじゃないの?」
「そうだね、私らが来ても学校で会うのとおんなじ感じだよね」
「私がウチに来て、なんでテンションがハイになるわけ?」
「そりゃ初めてくるお客さんがいたらテンションあがるんじゃない?私が初めてミコトちゃんちに行った時もあんな感じだったよ」
「そうかあ、初めてくる人がいるとテンションが上がるのかあ。わかったよ、家庭訪問の時、やたらそわそわしたのはそのためだったか」
”なるほど”
「ところでミコトちゃん、今日ランドセルで来たの?プリントと筆箱いれるためだけにしては大きすぎない?」
「そうそう、ここに来る途中も中でなんかゴトゴトしてたけど、中に何が入っているの?」
二人に不振がられたミコトはやむなく埴輪と土偶を出す。
「これ、私の部屋で飾ってる土偶なの。こっちは最近拾った埴輪」
「うわあ、ミコトちゃん、こういうの部屋に飾ってるの?趣味悪ーい」
「ミコトちゃんらしいと言えばらしいけどね。これ見せに来たの?」
「ううんそうじゃないんだけど」
”なんじゃ、見せに来たといってられば良いではないか”
”そうだそうだ”
”そんな、趣味が悪いって言われているのにそんなこと言えるわけないでしょ?”
”趣味が悪い、とは何か?”
”趣味ってのはその人の楽しみや喜びを表わすモノやコト。趣味が悪いっていうのはそのモノゴトの好みが他人とは違っていて変わってるっていうこと”
”おのれ!我らはともかく、姉様まで悪しく罵る者は成敗してやる!ヘーイ・ヘイヘイ・ヘーイヘイ”
「あーあ、なんだか気が抜けちゃって疲れて来たなー」
「そうだねえ、お昼前だしガス欠かもー」
”こら!止めなさい!”
”ポ・ポ・ポ・ポ・ポ・ポーッポ、ポ・ポ・ポ・ポ・ポ・ポ・ポッ・ポッ・ポポッ・ポー”
”ンンンン・ンーンンンー、ヘイヘイホー、ヘイヘイホーヘイヘイホー、ヘイヘイホー”
”こらっ!二人とも止めなさい!”
「こらっ!二人とも止めなさい!」
「そんなこと言ったって、ミコトちゃん、急にだるくなってきたんだもん」




