友達んちで腹が減る
二度目の休憩の十一時。突然ミコトの腹の虫が自己主張をした。
「えーっ!ミコトちゃん、お昼にはまだ早いよ、あと一時間もある」
「ごめんね。今日の朝ご飯、お粥だったから。いつもより早い時間に鳴っちゃった。ちょっと一旦お昼を食べに戻るね」
「えっ?帰るの?お昼御飯用意してるから、まだいっしょにやろうよ」
「そうだよ、ミコトちゃんがいないとだらけて先に進まないと思うよ。なにせ半端ない集中力で書き込みしてたから、それにつられて集中してたんだよ」
「そうかな?」
「ちょっと待ってて、お母さんに早めにご飯にしてもらうように頼んでくる。食べられないものってなか
ったよね、みんな?」
「私、野菜は苦手ー、ピザとかにしてー」
「マオちゃん、ご馳走になるのにそんなこと言っちゃだめだよ」
「ここのお母さん優しいから結構自分の意見通るよ。エリコちゃんの希望は?」
「私は何でも」
「でた!なんでもいいっていう奴に限って出てきたものにケチつけるっていうよね」
「本当に何でもいいんだって。ミコトちゃんはどう?」
「私、結構たくさん食べちゃうからなあ。できればお結びなんかがいいんだけど」
「ピザ屋さんは村にはないからあきらめて、マオちゃん。お結びならすぐにたくさんできるから、ミコトちゃん。エリコちゃんは何でもいいんだね」
「あ、アイちゃん。電話貸してくれない?ウチに電話しなきゃ」
「うん。玄関に置いてあるから使って」
宮崎藍が部屋を出るのに続いてミコトも部屋を出る。そして自宅に電話をかけ、お昼は宮崎邸でご馳走になることを告げた。
電話から戻ると、山口真央と荒木恵理子が雑談を始めていた。
「いやー、しかし、二時間でこんなに進むとは。驚きだね」
「我々もやればできるもんですな、この調子ならすぐ終わりそうだね」
「ちょっと二人とも。まだ半分も終わってませんよ」
二人の会話に割って入るミコト。ついでに元居た座布団に座りこむミコト。
「大丈夫だよミコトちゃん。さっきみたいに集中すれば」
「お昼前までに半分まで終わらせておきたいね」
「それにしてもミコトちゃん、さっきまですごい迫力だったよねえ、なんか鬼気迫るものがあったよ」
「へ?なんのこと?」
「自分では気がつかないんだろうけど、すごくプリントに没頭してたから、私たちもつられちゃったよ。
いつもあんな感じでお勉強してるの?」
「うーん、あんな感じがどんな感じかわからないし、おうちではあんまり勉強してないよ」
「じゃあどうして眼鏡かけてるの?集中して近くのものを見るから目が悪くなったんじゃないの?私の場合がそうなんだけど?」
荒木恵理子は自分の眼鏡の淵を人差し指でクイクイ動かしながら問い質してきた。
「いや…原因はよくわからないけど、気付いたら視力が悪くなってたの。変かな?」
荒木恵理子は台に身を乗り出しミコトに近づく。
「ねえ、ミコトちゃん?同じメガネ女子にうそはつかないでくれる?本当はすごく勉強してるでしょ?」
なぜだか山口真央も身を乗り出してミコトに迫る。
「ねえ、ミコトちゃん、同じクラスメイトにうそはつかないでくれる?本当はケイジ君のこと、好きでしょ?」
「二人とも近い近い!離れて離れて!」
二人に迫られているところに、宮崎藍が戻ってきた。
「何やってるの三人で?なんか楽しそうだね」
「あ、アイちゃん。これで全員戻ったね。さあ、続きを……」
「その前にケイジ君のこと、はっきりしとこう?」
「いやいやいいや、今はケイジのことは関係なくない?どうしてメガネのことから彼のことに話が飛ぶの?」
「私も気になるなあ、ミコトちゃん。どこまで進展しているの、二人の仲?」
「進展も何も、何も始まってません!」
「へえ、始める気はあるんだ?」
「自分に素直になろうよ、ミコトちゃん。人を好きになることは、恥ずかしいことじゃないんだよ」
「もう、アイちゃんまで!ケイジは近所に越してきた子で、なんでもありません」
「でも、ミコトちゃんちの神社によく遊びに来てるんでしょ?」
「そうそう、ミコト神社でなにしてるの、彼?」
「何って、サッカーの練習。それしかやってないよ。アイツ、サッカー馬鹿だから」
「でも、話くらいはするでしょ、どんな話するの?最近だと何の話題?」
「えーと、昨日の夕暮れにアイツいたから、早く帰らないと暗くなるよって…」
「それだけ?他には?」
「うん、昼から休んだ男子の家に行って来たって。どんな様子か聞いたら、割と元気だったって」
「それでそれで?」
「ケイジの家では風邪引いてる人はいないか聞いたらみんな元気だって。お爺ちゃんは特に元気だっていってたよ。それだけだよ昨日の話は」
「いいなー、ミコトちゃん。ケイジ君が近くに越してきて」
「でもアイツ、サッカーの話しかしないよ?サッカー馬鹿だから。マオちゃん、サッカーの話なんかできたっけ?」
山口真央はしばらく腕を組んでうーん、と考え込んだ。そしておもむろに答えた。
「その質問はおかしいな。ケイジ君、サッカー以外の話もできるもん」
「え?そう?どんな話?」
「おしゃれの話とかしたよ」
荒木恵理子がすかさず突っ込む。
「それは、マオちゃんが一方的に話をしただけじゃないのか?頷いてただけだったでしょ、その時ケイジ君って」
「そう言われれば…そうかも」
ミコトは押しこまれていた会話を止めさせるべく、柏手を打った。
「とにかく、お昼になるまでに半分は終わらせようよ」