初めて来た友達のおうち
「……って、ミコトちゃん、聞いてる?また上の空だったよ」
「ああ、ごめんね、聞いてなかった」
「最近ひどくなってない?もしかして、ケイジ君のこと考えてた?」
「ううん、そんなことないって、考えてない考えてない」
「そーお?ミコトちゃんの妄想、六年になってからひどくなってるんだけど?原因として考えられることはただ一つ!ケイジ君が近所に越してきたことだ!」
「そんなんじゃないって。それよりまだつかないの?」
「ああ、もう見えてるよ。ほらあの垣根で囲われた広い家」
「わあ、すごいねえ」
「あれに匹敵するのはシオリさんちぐらいだね」
「シオリさんちってそんなに大きいの?」
「大きいの大きくないのって、そりゃ大豪邸だよ。さあ着いたよ」
少女二人は玄関のチャイムを押した。
「おはようございまーす」
二人してあいさつをする。玄関のガラス越しから人の気配がして、それが大きくなって内側の鍵を開けた。
「いらっしゃい、二人とも。さあ、中に入って」
中から出迎えたのはクラスメイトの宮崎藍であった。いつもは見られないパンツルックだった。
「ミコトちゃん、制服で来たんだ。やる気満々だね」
「あ、わかる?」
「マオちゃんはっと、いつも通りだね」
「ええ?それだけ?」
「マオちゃんの服装は色々ありすぎて私の表現力が追いつかないの。さあ、ここでやろう」
案内されたのはミコトの部屋の三倍はあるかと思われる畳部屋に、これまたミコトの家の台所にあるテーブルが広さを三倍にして背丈を半分にした卓袱台が鎮座していた。そしてそれぞれが座りそうな所に座布団が敷いてある。さらにはそこに台にもまして劣らぬ安定感で座っている人物がいた。
「エリコちゃん、おはよう」
「ミコトちゃん、マオちゃんおはよう」
「他の人たちは?」
「シオリさんは今日は抜けれないって、リンちゃんは昨日から熱が出て、今日来れないって」
「アスナは?」
「藍色アイちゃんが連絡したんだけど、やっぱり風邪だって」
「元気なのはここにいる四人だけかあ」
「そうなっちゃったねえ。私たちも気を付けないと。さっき、ウチのパパが診療所行ったから、私も移ってるかもしれないし」
「ミコトちゃんなら風邪がうつってきてもちゃんと取りつけなくって、逆に風邪をやっつけてしまいそうだよ」
「診療所に行ったんなら大丈夫じゃない?なんかこの辺だけ風邪流行ってないみたいだし」
飲み物を人数分持ってきた宮崎藍が返事をした。
「この辺だけ?」
「うん。私もマオちゃんもエリコちゃんもこの辺に住んでるでしょ?」
「アイちゃん、この黒い飲み物、何?」
「タンポポコーヒーだよ。みんなが元気でいますようにって、ウチの母さんがいれてくれたの。あとで普
通の飲み物持ってくるから」
「タンポポコーヒーっていうからコーヒーの味なのかな」
そう言って一口啜った山口真央の眉間にしわが寄った。
「何これ?全然コーヒーと違うじゃない。なんか泥臭いし。ヤダコレ!」
ミコトも一口啜ってみる。コーヒーを飲まないミコトにとってはこれがコーヒーですよ、そういって出されたたら、ほうそうですか、そう言って何の疑いもなく飲んでしまう代物だ。口の中に泥臭い苦みとほんのりとした甘さを感じる。
「アイちゃん、これ砂糖入ってる?」
「さすがミコトちゃん、敏感だね。飲みやすいようにほんの少し砂糖入れてあるの」
「苦いのは苦手だけど、これは飲むことが出来るなあ」
「ホントに?良くこんなの飲めるね、ミコトちゃん」
「まあ、お薬と思って飲めば?マオちゃん。病気にならなければ明日っからゴールデンウィークを満喫できるよ。それに薬にしてはおいしいし」
「えー?良く飲めるね、エリコちゃんも」
「うちは年寄りがいるからね。こういうのよく飲んでるよ。でもコーヒーって言ってなかったなあ。タンポポ茶っていってたよ」
「こんなの、コーヒーでもお茶でもありませーん」
「だから、お薬って思って飲めばいいよ。一緒に飲もうよ。こんなの五口ぐらいしかないよ」
嫌がる山口真央を宥め賺し、ミコト達はその飲み物をどうにか全部飲みほした。