埴輪、登場③
山口真央の家は診療所の裏手にある。診療所の駐車場をでて道路を道なりに進んで初めの角を曲がるとそこはもう山口家の庭だ。山口家の呼び鈴を鳴らすミコト。呼び鈴を離し終わると同時にドアが開いた。
「おはよう、マオちゃん」
「おはようミコトちゃん。時間ピッタリだね。うわあ、制服で来たんだ」
「うん。遊びに行くわけじゃないからね。こっちの方がホームワークやるぞ!ってかんじになるでしょ?
マオちゃんはまたいつにもまして着飾ってるね」
「たまの休みなんだもん。思いっきりおしゃれしなくっちゃ。さ、行こう。案内するからついて来て」
ミコトは山口真央に連れられて歩きだす。
「アイちゃんちはどの辺にあるの?」
「この道しばらく進むと山道に入るんだけどちょっと行ったところにいくつか家があるの。その中の一つが藍色アイちゃんちだよ」
山口真央が話している最中に、朗らかにそして高らかに歌う声が聞こえる。
「どうしたの?ミコトちゃん?そんなにキョロキョロして、そんなにここら辺って珍しい?」
「うんん、マオちゃん、何か聞こえない?」
「ええ?何も聞こえないよ?」
この感じ。遠足の時とおんなじだ、ミコトは山口真央に気付かれないように呟いた。そう、ミコトの頭の中だけで高らかに響く歌声があったのだ。
”パ・パ・パ・パッパ・パパパパ・パ・パパパパパ”
”ちょっと、ソナタ。これって……”
”うむ。これは間違いない”
”そうでござる。これは”パ”の歌声。ヒノミコト殿。探すでござる”
”さっきから見回してるんだけどねえ?見当たらないわねえ”
「ちょっとミコトちゃん、聞いてる?」
「ああごめん、いつもの癖で。それより今日の格好また一段と目立つねえ。どこで買ってくるの?こういうの?ウチのパパがマオちゃんの服装褒めてたよ」
”ちゃんと探しているのか?ヒノミコトよ。声がだんだん遠くなってきているが?”
”ちょっと今、人と一緒だから、独りで動けないの。わかるでしょ?後でこの辺り探しに戻るから”
”パ・パ・パ・パッパ・パパパパ・パ・パパパパパ”
「へえ、ミコトちゃんのパパが。うれしいなあ、あんまりこの村ちゃんと褒めてくれる人、少なくって、いやになっちゃうのよねえ」
「ウチのパパ、私にマオちゃんみたいな恰好させたいんだって」
「ミコトちゃんはこういうおしゃれよりも制服コスチュームの方が似合ってると思うな」
「制服コスチューム?」
「学校の制服とか、ほらミコトちゃんのママが来ている巫女の格好とかだよ」
”ヒノミコトよ、こすちゅうむのことより、早く探さないと、声が消えてしまうぞ”
”帰り道で探すよ。この辺にいるってことはわかったんだしそれでいいじゃない?”
”ヒノミコト殿、その時、パが歌ってなかったらどうするでござるか?”
”えー?いつも歌ってるんじゃないの、あんたたち?”
”我らが歌っているときは、我らが事につかえている時。人の言葉では”仕事”というのでござろう?”
”何よ、あんたたちの仕事って?”
”我らの仕事は、我らの力を全うすること”
”つまり、今の歌はパがパの仕事をしてるってこと?”
”パ・パ・パ・パッパ・パパパパ・パ・パパパパパ………………………”
「もう、ミコトちゃん。またぼーっとして。私の話、聞いてた?」
「うん、聞いてたよ。私は制服の方が似合うって。私もそう思うし、マオちゃんらしい恰好はマオちゃんだけで十分だよね」
「ああ、ミコトちゃんもそう思う?やっぱり私って…」
”ああ、声が消えた……”
”これは、パから遠ざかったからなのかな?それとも歌うのをやめたから?”
”おそらく遠ざかった方であろう。声が小さくなっていったから”
”結構上の方から聞こえてきたよね。高い所にいるのかしら?”
”そうかもしれない。パの力は風によって広がるからのう。高いところの方が遠くまで広がる道理じゃ”
”高いところは風が強いの?”
”地が風を遮っているからのう、上に行くほど遮るものがなくなる。よってその動きも速くなる”
”ふーん、そうなの”