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ミコトのドーグー!  作者: あいうわをん
第2章 埴輪(はにわ)のパピプペポ
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愛娘の初めての料理・・・味がわかりません!残念!



 母親が台所から出て行くのを見送ったミコトは、冷蔵庫の中を覗いてみた。


「お粥に合う、何かお腹に優しいオカズってなんだろう?」


石川家のお粥は溶いた玉子をお粥にかけ、その上に薬味をはらりと散らしたものであった。お腹に優しいとは何だろうか?あまり噛まなくていい食べ物を使うということか。とりあえず、ミコトは、確かにお粥だけでは味気ない、そう思い、冷蔵庫から梅干しと小葱を採り出した。とりあえず梅干しの種を取って、周りを細かく刻んで、それに小葱を刻んで混ぜ合わせてみた。ミコトは一つまみ手に取って味を見る。うーん、何か足りない…しょっぱさは十分としても、何か足りない。いつもご飯のオカズには何があったっけ?酢の物、焼いたメザシ、生野菜サラダはお腹に良くなさそうだ。玉子焼き、は溶き玉子をお粥の仕上げに使うからつくらなくていいし、何つくろうか?料理ってすごく頭を使うなあ!ママは毎日こんなに頭使ってたのね。毎日変な創作料理つくってるって言ってごめんね。そう心の中で謝るミコトであった。



 結局、ミコトは何をつくったらよいかわからなかったのでワカメと豆腐のお味噌汁をつくった。これなら毎日食べてるし、そんなに大きく失敗することもないだろう。実際、少し味は濃いめだがおいしいお味噌汁ができた、そう自負するミコトであった。   


 母親と自分の分の朝食を用意し終わったところにタイミング良く母親が猫を一匹引き連れて戻ってきた。母親は並べ終わった料理を見て感想を言った。



「あらー、なんか寂しい食卓ねえ…オカズはお味噌汁だけ?」


「ママ、食欲は戻ったの?もっと何か作る?」


「まあいいでしょ。今朝はこのくらいで我慢してあげる。だけど、今日の晩御飯はたくさんつくるわよ」


「たくさん、って言ってもパパはあんまり食べられないんじゃない?」


「そうよ、私とミコトで食べるのよ。もう、たくさん作っちゃうから覚悟して食べなさい」


「わあ、ママ元気になってきたんだ。良かったあ」


「丸二日間、休んでたからね。そりゃ元気にもなるわよ。今晩のオカズはなんにする?カレーライス?」


「それは一昨日食べた。昨日はシチュー」


「じゃあ、お鍋にしましょうかね。お魚の身がたっぷり入ったちゃんことか」


「お肉がたっぷり入った、ではなくって?」


「前から言ってるでしょう?お肉は誰かがご馳走してくれる以外は食べちゃだめって」


「わかってるよ、言ってみただけ」


「本当にわかってるならいいけど?」


「えーと、キンキ、なんでしょ?お肉を食べるの?」


「そうよ、禁忌、恰好つけて言うとタブー」


「どうしてお肉を食べることがタブーなの?」


「お肉はエネルギーが高い食べ物だから。ヒトはお肉を食べると元気が出すぎちゃって争いが起きるの。だから争いを起こさないようにお肉を控えるのよ」


「お米食べても元気が出るよ」


「そうそう、コメや麦、大豆ぐらいの食べ物がちょうどいいんだけどねえ。たくさん食べてもたかが知れてるし」


「たかが知れてる?」


「そう、高が知れてる。多めに見積もっても大勢に影響がないって意味。穀物はたくさん採れるから食べ物のために争うことはなくなるのよ」


「牛や豚もたくさん増えるんじゃないの?」


「うん、そうだけど牛や豚が増えるためには餌がたくさん必要でしょ?ならその分をヒトが食べた方がいいんじゃない。あなたそんなにお肉が食べたいの?」


「だってお肉おいしいんだもん。ママはお肉食べたくならないの?」


「ママは時々御払いのお礼にご馳走されますからね」


「えー、ずるい!そんなこと聞いてなかったよ。いいなあ、ママばっかり」


「はいはい、騒がないで。まずは朝ご飯を頂きましょうか。パパがいないけど」




そう母親が言ったその時、台所のドアが開いた。父親がゆらりと入ってきた。いつもよりさらに動きが遅い。まだまだ病の最中だ。


「おはよう、二人とも朝から元気だねえ」


喋る声にも生気がない。母子ともに父親にあいさつを返した。


「お、今日はお粥か。有難いね、まだ食欲がなくって。でも食べないと元気が出ないし」


「今日のご飯はミコトが作ったのよ。さてお味の方はどうですかね?」


「おおそうか、ミコトが作ってくれたのか。それはうれしいね、味わって食べないと。もっとも今味がわかるかどうか怪しいけど」


ミコトは父親の分のお粥とお味噌汁を盛り付け父親に渡した。


「はい、どうぞ召し上がれ」


「それじゃ、有難く。いただきます」


皆で手を合わせて食事のあいさつをする。昨日の夜はやっぱり寂しかった。いつもどおりに戻ってよかった、そう安堵するミコトだった。ミコトは父親が蓮華でお粥を啜るのを見つめる。一口目をふうふう吹いて口にする父親。もぐもぐ口を動かす父親。噛んだものを飲みこみ一息つく父親。


「どう?おいしい?」


「うん、おいしいよ。何というか……味はわからないんだけど、おいしいんだよ。わかってくれるかな?この感じ?」


「愛する娘が初めて作ってくれた料理だから、おいしくなくてもおいしいってこと?」


「まあ、そんな感じかな。今度元気な時にちゃんと作ってよ、そしたらちゃんと味の感想言えるからさ。ところで、今日はいやにゆっくりしているね。早く食べないと学校に遅れるんじゃないの?」


「ああ、パパには言ってなかったけど、今日学校休みになったの。インフルエンザが流行って学校休んだ子が多くなったので今日お休みにして連休になったよ」


「でもお前、学校の制服着てるじゃないか」


「ああこれ?朝ご飯食べたら友達の家に行こうと思って」


「学校が休校なんだから出かけない方がいいんじゃないか?」


「私もそう思うんだけどねえ。連休中にたくさんホームワークが出ちゃって。みんなでやろうって話になって。友達の家で集まってやろうって約束したの」


「だからって、制服で行くことはないんじゃない?」


「いいのいいの。制服で行った方が宿題もすすむし。普段着で行ったらだらけてしまうんじゃないかなって思って」


「そうかい?パパは男だからファッションのことはわからないけど、少しはおしゃれしていった方がよくはないか?まあ、ミコトがそれでいいっていうんならいいけど?それはそうと、誰の家に集まるの?」


「宮崎さんの家」


「宮崎さん…ウチに来たことある?」


「まだないんじゃないかな?」


「どこにあるの?」


「私も知らない。だから山口さんの家に行って、山口さんに案内してもらうの」


「山口さんというと、山口真央ちゃんのことかな?一度ウチに遊びに来たことがあるよね」


「そうだよ、よく憶えてるね」


「すごくおしゃれしてウチにきてなかったっけ?山道で台無しになってたけど。ミコトにもああいうのを着て欲しいなあ。どこでお洋服買ってるか、聞いといてくれる?今度そこへ買い物に行こうよ」


「あら、良かったじゃない、ミコト」


「できれば、全員で行きたいんだけど……」


「だめですよ、誰かが神社にいないといけないでしょ?」


「うん、わかってる。言ってみただけ」


「山口さんの家はどこにあるの?」


「診療所の近く。そうだ、パパ今日診療所いくんでしょ?車で。私も乗っけてってよ」


「それはいいけど、帰りはどうするの?」


「帰り?考えてなかった。ホームワークがどのくらいか時間かかるかが問題だね。どのみちお昼にはご飯を食べに帰るから」


「歩いて?」


「他に方法、ないでしょ?」


「お昼すぎたら?」


「そうだね、自転車でまた出かけるよ。パパ、車で診療所、いかない?」


「そうだね、行こうか。それでミコトは何時に山口さんとこにいけばいいの?」


「えっと、宮崎さんちに朝九時集合で、山口さんちに十五分前に待ち合わせ」


「えっと、診療所は八時半からだからそのころに出発すればいいのか」


「結構病人がいるみたいだから早めに出かけないと待ち時間が長くなるかもしれないよ」


「なに、たいしたことないだろう。八時半に出発するよ」


「あなた、運転なんかして大丈夫なの?私が運転してあげようか?」


「うん、大丈夫だ。神社に人がいないとまずいんじゃなかったのかい?」



それに君の通常運転よりは僕の熱出している時の運転の方がずっとましだよ、とは男は言わず、黙って娘の作った料理を食べだした。


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