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ミコトのドーグー!  作者: あいうわをん
第2章 埴輪(はにわ)のパピプペポ
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もう起きましょう



「それじゃ私と一緒に探しても意味ないか」


「それにそなたが言うとおり、やつらは小さい。歌歌っておる時でないなら見つけることは難しいだろう」


「じゃあ、どうすればいいの?」


「さて、わらわにもさっぱり?」


「もう!肝心なところでさっぱり役に立たないんだから、ソナタは!」


「まあそう言うな。そうだ、わらわのほかにあの二人も連れて行ってやれ。わらわよりは役に立つのではないか?」


「そうかな?あの二人役に立つかな?まあ、ソナタよりは小さいし、そんなに邪魔になるものでもないし持っていきますか」




明日のことをいろいろ考えているミコトに、土偶が問いかけてくる。


「アカネサス・ヒノミコトよ、この机の上に置いてある本はなんじゃ?」


「ああ、これ?友達から借りてきたの。料理の本だよ」


ミコトは手にとって中身を見せようとした。ばらばらとページをめくるが中身は白い。あらら?落丁かしら?ようやく内容のある個所が出てきたと思ったら、そこは起きている時間に見ていた”お粥”の頁であった。


「あれー?夢の中では本の中身は白くなるのかな?でもお粥のところはちゃんと載ってるし、変だなー」


「変ではない。この夢はそなたがつくりだす世界。そなたの中に無きモノゴトはこの世界には生じぬ。現し世の中でその本をよく読み、中身をよく知ることができれば夢の世界でも読むことができるであろう。ところでその食べ物はなんじゃ?」


「ああ、これ、お粥。病気の人が食べられるように水でお米を煮たもの。ママだけでなくパパも病気になっちゃったんで、明日の朝は私が朝ご飯作ろうと思って」


「この島のタミは本当にイネノミが好きだのう」


「タミ?イネノミ?」


「多くいるヒトの身をタミといい、稲の実りをイネノミと言う。わらわの覚えが定かなら、この実がこの島に来て以来、皆夢中になってこの草を植えておる。今でもそれは変わらんようじゃのう」


「えー、稲ってすごく昔から育ててるじゃない。教科書で見たよ。二千年とかそれ以上前から作ってるんでしょう、たしか。ソナタも同じくらいの時にできたの?」


「わらわの覚えはヒトとともにあり。しかしわらわがいつできたのか、どこでわらわができたのか、誰がわらわを創りだしたのか、何のためにわらわを創りだしたのか、それらは全くわからぬ。わかるのはただ、わらわは統べるモノを見守るモノである、ということのみ」


「もう!肝心なところはわからないなんて!いつもそうなんだから!それとも何か隠してるのかしら?」


「そなたの問いにはわかることはすべて答えておる。隠しゴトはなにもなしじゃ。」


「ホントにー?」


「ホントのホント」


「そのセリフが怪しいのねえ?」


「セリフとは何か?」


「セリフっていうのは、その人が言っていること、内容。ホントにホントってどこで憶えてきたのよ?」


「かつてのそなたのセリフにあった」


「ホントに?」


「ホントのホント。そら、そなたはまたホント、という言の葉をつこうておる」


「あ、ホントだ。そうか、私の口癖がうつっちゃうのね、ソナタに」


「そうじゃ、言の葉は病と同じ。人にうつし、うつされヒトは変わっていくのじゃ」


「言葉は病気と同じって、変なの!言葉で人が死ぬわけないじゃない」





「ヒノミコトよ」


急に重々しく喋りだす土偶。


「言の葉でヒトは死ぬ」


一つかみの間、ミコトは動けなかった。


「だからヒノミコトよ、言の葉には気をつけることじゃ。まあ、皆で仲良く、そう言っているそなたには縁がないかもしれぬがの」


そう言うと土偶は振動を始めた。振動の音は少しづつ大きくなった。何やってるんだろう?それに何言ってるんだろう?言葉で人は死ぬって、どういうこと?言葉って、ただの音じゃない。音で人は死なないよ?それとも人を殺すほどの大音量の音なのだろうか?大きな音を聞くと、人は死んでしまうのだろうか?その時は耳から血が…って、何?うるさいな?




「ちょっと、なにしてるの?うるさいよ!」


「何、そなたが考え事をしているようなのでな」


にやりと笑う土偶、という風にミコトには見える。実際はモノが笑いを見せることはないわけだが、そういう風に見えてしまう。表情が変わるわけでもないのにどうして笑っているようんに見えるのだろう?


「アカネサス・ヒノミコトよ」


再び土偶が問いかける。


「そなた、死ぬのはこわいか?」


「死ぬのが怖くない人っていないと思うの」


「そうか」


そう言ってまたも土偶は笑った、というより優しく微笑んだ。言い方が変わったから?そう言うように見えるのか?


「それでは誰かのヒトシニが出ないうちにパピプをおさめてしまうかの」


「おさめて?」


「そう、おさめてしまおう。おさめる、とは大きくなったコトを小さくそして鎮めること、あるいはコトが大きくなる前に何か手を打つということ、すなわち大小める、じゃ。わかるな?この度のこと」


「わかってる。今度こそ、ちゃんとパピプを見つけるわ」


「その意気じゃ、それでよい、それでよい……」


土偶の声が小さくなるとともに、目覚まし時計の機械音が大きくなる。ああ、もう起きる時間なのね、そんなに寝た心地はしないけれど、起きちゃうか。


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