ソナタのお告げ
眠りについた後、夢の中が自分の部屋、というとき、その今いる世界が夢なのか、現実なのか。物がしゃべりだせば、そんなことはありえないから今その時は夢である、そう思うだろう。しかし、ミコトは机の土偶と起きている時も話ができるのである。もっとも起きているときは頭の中だけであったが。ミコトは夢の中の自分の部屋で、自分の椅子に座り、自分の机の上に置いてある土偶に語りかける。
「ソナタ、話があるんだけど?」
机の上に置いてあった土偶は奇音を発し机から離れ、ミコトの目の前まで浮いてやってきた。物が浮くなんて、飛行機以外ありえない、よってこれは夢の中なのね、やっぱり。それにしても急に眼の前に飛んで来るなんて、びっくりしちゃうよ。
「呼んだか?ヒノミコトよ?」
「呼んだか?じゃないわよ、急に眼の前に飛んでこないで、それと近すぎるよ、もう少し離れて、話しにくいよ」
「そうか、どのくらい離れたらよいか?このくらいか?」
土偶は少しづつ後方へ下がっていく。夢の中でなんでもありとはいえ律儀に距離をとる土偶を見てミコトはちょっぴりおかしさを感じるのであった。
「そう、それくらいでいいよ」
「それで、話とは何か?」
「うん、話って言うのは…ちょっと待って?私、話の話をするんじゃないよ。話の中身の話をするから」
「何を言っているのか?」
「だって、いつもはナニナニとは何か?って聞いてくるでしょう?話とは何か?って言ってきたから、話についての話をしなきゃならないのかなって思ってさ」
「話とは二人での、あるいはそれより多くのモノとの間に交わされる問いと答え。そうではないのか?」
「話についての話はそれでいいよ、もう。話の中身を話していい?」
「問え、ヒノミコトよ」
「うん、何から話したらいいかな?今日学校で起こった事からでいい?」
「ナニゴトが起きたか?」
「うん、今日学校に行ったら子供たちがたくさん休んでたの。お昼すぎたら学校に来てた子たちも気分が悪いって言って帰っていったの。昨日遠足に行ったせいで疲れている人がいるのはわかるけど、いま、風邪が流行っているの、ウチの村。これってやっぱりあいつらのせいなのかな?」
「アカネサス・ヒノミコトよ、昨夜わらわはそなたに申したはずじゃ。病が手掛かりと。だが、思うたより早く広がっておるようじゃな。今の病いはどのような具合か?」
「三日間高熱が出て、関節が痛くなるって言ってた」
「なるほど、コタビヒトシニはでてないのじゃな?」
「コタビヒトシニ?なにそれ?」
「今流行っている病で人は死んではおらぬのか?と聞いている」
「ああ、死んでいる人はいないみたい。今のところ。ん?今って言ったよね今」
「先ほどじゃ、今と言ったのは。今の病と言った」
「今の、って言ってるのは、次のっていうのがあるみたいだけど?」
「そうじゃ、次が当然ある。しかも」
土偶は勿体をつけて喋るのをやめ、空中で左右に回転し始めた。くるくる。
「しかも、なんなの?」
土偶は急に回転を止め、ミコトに正対した。
「ヒノミコトよ、雨が近付いている」