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ミコトのドーグー!  作者: あいうわをん
第2章 埴輪(はにわ)のパピプペポ
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友達のうちを家庭訪問②




 次に向かったのは石川和美の家だ。一昨日は竹下家から石川家まで車で移動したのであっという間に着いたのだが今日はそうはいかない。といっても竹下家と石川家の間は普段から歩いて移動しているのでさほど苦にならない。むしろ、車であっという間に着くことの方がミコトには驚きなのだ。車というものは移動する時間を短くはするが移動の間の周囲を見て楽しむには不向きなものだ、ミコトはそう思う。


 この辺は家々に花の咲く草木が植えられていて、四季が移ろう毎にさまざまに色彩を変えていく。今時期は桜、木蓮が終わり藤や牡丹、リラ、数えれば限ない。ミコトはこの地に来てまだ一年経っていない。これから夏になるまでどんな花が咲くのかしら、楽しみ楽しみ。そう言えば、このあたりの花の事を教えてくれたのは石川和美なのであった。この辺を一緒に歩いていたときに教えてくれたのだった……カズミちゃんが元気になったらまたいっしょに散策しよう、そんなことを考えていたら石川家に着いた。


 ピンポーン。チャイムを鳴らす。反応がない。しばらく待って、もう一度、ピンポーン。しばらくして、ハーイ、どちらさーん?という聞き馴染んだ、しかしいつもとは違う様子の声が聞こえてきた。


「日野です。カズミちゃん、ここ開けて」


ドアが開く。いつも元気な石川和美だが、今目の前にいる人物はどんよりと目が曇り、反応もいつもより鈍い。顔も少し赤くなっているようだ。単に体調が悪いだけではなさそうだ。


「ああ、ミコトか。ちょうどいいところに来た。今ウチの弟にお粥作っていたところなんだが、私もどうやら風邪引いたみたいなんだ。ちょっと塩加減を見てくれないか?まあ、中に入れよ」


竹下家同様に台所に通されるミコト。そこではぐつぐつという音とともに優しい香りが漂っていた。ミコトは鍋に近い方の椅子に座らされた。


「今、お粥作ってたんだけど、どうも気分が悪くなってな。台所でうっぷしてたところ」


「うっぷして?」


「ああ、うつ伏せになって寝てたんだ、椅子に座ったままで。で、何の用?」


「ああ、連絡があって。明日学校休校になるよ。それでね」


と言いかけたところ、ミコトは石川和美がまた”うっぷして”いるところを見た。


「カズミちゃん、大丈夫?気分悪いの?」


石川和美はゆるゆると顔をあげた。瞼をあげるのも重そうだ。


「うん、単なる遠足疲れかと思っていたら、本格的に風邪引いたみたいだ。まったくキョーダイそろって何やってんだろうなあ?家族の健康管理もできないなんて私は主婦失格だな…」


はーっと大きくため息をつき、ミコトの友人は再びテーブルに顔を伏せた。



「それで、なんだっけ?」


「うん、明日休校なの。それで、明日っからの休みの最中に小学生が外をうろうろしないようにホームワークをたくさんだされたの、それを渡しにきたの」


いつもなら、なんでそんなことするんだろうな、学校側の横暴さには抗議しなきゃならんな、などと啖呵をきる石川和美であったが、今日は全く反応しない。ただ、そうか、と言ったまま身動きもしない。台所には、ぐつぐつぐつぐつという鍋の音だけ響いている。ミコトはしばらく返事を待ったが何もアクションがない。ミコトは一息ついて立ち上がり、石川和美のそばにたった。額に手を当ててみる。ん?少し熱があるかな?自分と比べてみるが、あまり変わらないようだ。でもまてよ、私って平熱が高いんだったっけ?ということはカズミちゃん熱があるのか?


「カズミちゃん、おなべ、どうすればいいの?吹きこぼれちゃいそうだけど…」


「火を止めて、味を見てくれないか?」


ミコトは言われた通り、お玉で少し中のものをすくい取って、そこらにおいてあった小皿に入れ味を確かめた。うお!おいしい!塩加減が絶妙だ。


「うん、すごくおいしいよ」


「おまえは何でもおいしいって言うからなあ。まあいいや、それじゃ冷蔵庫にネギが入っているから、それ刻んで。ああ、卵も解いて流し込んで。ドンブリが戸棚に入っているから、三つ。お前も食ってけよ」


「ねえカズミちゃん、これどうやって作るの?教えてよ。ママに作ってあげたいの」


ミコトは手を動かしながらも、石川和美に問いかける。何もしゃべらないと石川和美はそのまま寝てしまいそうだったからだ。


「ああ、料理本を見てやったからな。貸してやるよ、もってけ。ああ弟も呼んでくる」


そう言ってよろよろと立ちあがり台所から出て行った。おーい、ヘイジー、メシができたぞー、ちゃんと食えー、ミコトが来てるぞーという声が聞こえていた。ホントにー、姉ちゃんウソついてんじゃないだろうなー。という声が弱弱しく響いている。二人が姿を現したのはミコトが三人分を配膳し終わった後であった。


「あー、ホントにミコトさんいるー。どうしたんですか?」


弱弱しいながらもうれしさを隠しきれない様子だ。


「うん、、明日学校が休校になるって知らせに来たの。それとホームワーク届けに」


「うわー、これミコトさんが作ったんですかー、きれいだなー。黄色と緑が白いお粥に映えてる。」


「作ったのはお姉ちゃんだよ。私は手伝っただけ」


「ミコトは盛り付けるのが上手だなあ。あ、これ、貸したげる」


本を手渡された代わりに、ミコトはホームワークを手渡す。


「うへえ。これ休みの間に片づけろって?無理だよなあ、病人は寝てるっていうのに……」


「その前に私が食べたらカズミちゃんのお父さんの分がないんだけど?」


「ああ、いいって。とおちゃん夜遅くにしか帰らないし食べようぜ、いっしょに。そのつもりで盛り付けたんだろ?」


「えへへ、そのつもり」


「一緒に食べましょう、ミコトさん、大勢で食べたほうがおいしいですよー」


「それじゃあ遠慮なく。いただきまーす」



ミコト達がお粥を食べ始めたとき、玄関にあった電話が鳴った。


「私出てくるから、食べといて」


電話の主に、ミコトは心当たりがあった。


「もしもし、石川です。どちら様ですか?」


”あれ?その声は日野さん?宮本ですけど?”


「やっぱり宮本先生ですか。そうじゃないかなって思ってました。カズミちゃんの様子ですか?ええ、やっぱりインフルエンザみたいです。ええ、はい。ちょうどひき始めの様子みたいで今はまだ大丈夫みたいだけどこれからひどくなると思います。ええ、ウチの母と同じ症状みたいです。ハイ、弟君も同じ症状のようです。ええ、伝えました。ハイ、そういう風に伝えます。ハイ、ああ竹下さんのほうは単なる疲れみたいです。ハイ、様子はみれませんでした。ハイ、お母さんに話を聞いて、ハイ、そういう風に伝えました。ハイ、ハイ、失礼します」



台所に戻って席に着いたミコトはお粥を食べ始める。蓮華で一口掬い、ふうふう吹いてそっと啜る。


「おいしいね、カズミちゃん」


「ほらミコト、遠慮せずもっといつもの調子で食べなよ。それで誰からだった?長々と話してたみたいだけど?」


「宮本先生。佐々木先生が休んでるんで五年生の様子を電話して聞いて回ってたんだって。大変だよね、五年生の分まで仕事しないといけないなんて。ああヘイジ君にもいっとかなきゃね。明日休校になったから。無理して学校行かないでもいいわよ」


石川平冶は、はーっそうですか、よかったあ、と安堵の表情を示した。


「ホームワークのことなんだけどね、明日、みんなで集まって、分担してやるみたいだから心配しないで。終わったら持ってきてあげるから、カズミちゃんは風邪を直すことに専念してよ」


「そうか、助かるよ、ありがとう。ところでこれ、五年生の分はないのかな?」


「さあ?五年生のことは先生言ってなかったし。そこまで気が回ってないんじゃないかな?あ、今お湯を沸かすね。カズミちゃんちも食後にはお茶飲むでしょ?」


ミコトはポットに水を入れ、それを火にかける。お湯がわくのを待つ間に、ミコトは急須に茶葉を入れ三人分の湯呑を準備した。


「ミコトさんは家事やり慣れてますねえ。動きに無駄がないですよ」


「こらっ、こいつ。私のことはほめない癖にミコトのことはほめやがる」


「お、ちょっとだけいつものカズミちゃんが出てきたね。動きに無駄がないのは台所が使いやすいから。台所が使いやすいのはお姉ちゃんが使いやすいように日頃から手入れしているからだよ。お姉ちゃんに感謝しなきゃ、ね?」


「いいこというなあミコトは。ほら、姉ちゃんに感謝しろ」


「姉ちゃんはいっつも押しつけがましいんだよ。そんなんだから感謝も引っ込んでしまうんだ」




ミコトはよくこの姉弟の口げんかを見ている。そしてうらやましくもあるのだった。兄弟か…いいなあ。


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