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ミコトのドーグー!  作者: あいうわをん
第2章 埴輪(はにわ)のパピプペポ
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まだママさん抜きの晩御飯



脳内で会話をしていたところに、足音が聞えて来た。この足音は、父親のだ。母親はもっと静かに歩く。足音というより、床のきしむ音で部屋に近づいているな、と感じるのだ。ドアが開くと、やっぱり父親だった。食事の準備が出来たと告げに来たのだ。父親は、机まで来ると、目敏く二つの埴輪を見つけた。


「これ、どうしたの?」


「うん、今日公園に落ちているのを拾ったの」


「あんまり変なモノを拾ったりしちゃ、いけないなあ。そういえばまだ帰って来てから手を洗ってないんじゃないか?さあ、お腹空いてるだろ?手を洗って来て、ご飯にしよう」


ミコトは、わかった、と返事して部屋を出た。




 手を洗い終わったミコトは台所へ入った。そこにはミコト同様腹を空かせた猫達がいた。一匹は大騒ぎをし、もう一匹は静かに待っている。飼い主はキャットフードを餌皿に入れ、猫達の前に置いた。大騒ぎをしていた方は勢いよく皿に飛びつく。静かに待っていた方は、おもむろに目を開け、ゆっくりと、まず匂いを嗅いで、それから食べだした。


「ママの具合はどうかな?」


「うん、今は寝ているよ、目が覚めたらお粥を持っていくからミコトは気にしないで、さあ、お皿を受け取って」


受け取った白い深皿には、いつもと違う、黄が黒に近づいた色のモノが銀シャリを覆い、その上に光沢のある緑色がこれでもかというくらいに広がって添えてある。


「うわっ、ピーマンだあ!」


「いつもはピーマンを生でサラダにしているから苦く感じるじゃないかな?一度しっかり油で炒めているからそんなに苦くないよ。さあ、いただきます」


いいただきます、と言ったものの、ミコトの手に持つスプーンの動きは遅い。ピーマンをスプーンに載せたかと思ったらひっくり返してみたりしているのを見て、父親は言う。


「ほら、すこーし齧ってみてごらん。油の味がするだろう?今度は齧ったところを奥歯でガジガジ噛むんだ。すこーしピーマンからお汁が出るだろ?それを舌に載せないで飲みこんで、ハイ、できた。これをあと三回やれば、一切れピーマン食べたことになるだろ?ピーマンの味が嫌になったら、他の野菜を食べればいいのさ」


ミコトは、ピーマンをかじった後、にがーい、と言おうとしたが確かに父親の言うとおり、味が油に包まれて滑らかになっていて、苦いことは苦いのだが、さほど苦さを感じなかった。


「いつもママが作ってくれるのより野菜の切り方が雑だね」


「男の料理だからね。でも美味しいだろ?水をあんまり使わないで玉ねぎをたくさん使うのがポイントだよ。後は魚介類を別の鍋を使って調理することもね」


「うん、ピーマンさえなければ」


「ピーマンがないと、お前、良く噛まないで食べちゃうだろ?ちょっとでも苦いのを食べなきゃ駄目だぞ」


「ねえ、どうして苦いものを食べなきゃいけないの?」


「苦いものは体にいいからさ。最初は受け付けないかもしれないが、子供のころからちょっとずつ慣れておけば大人になってからも食べられるよ」


「どうして苦いものは体にいいんだろう?」


「ヒトの体には作れないけどヒトの体に必要なモノを体に取り入れる時、食べすぎない様に神さまが苦くしたんじゃないかな」


「それじゃ、甘いのは?」


「ヒトの体に大量に必要だからたくさん食べられるように、かな?」


「しょっぱいのは?」


「ヒトの体は海から来たんだ。だから食べ物のなかに海よりも塩がたくさん入っている時、しょっぱく感じるんじゃないかな?」


「じゃあ、酸っぱいのはなんで?」


「さあ、なんでだろうね?苦いのと、同じ理由じゃないかな?」


「段々説明が適当になって来たね?」


「だってパパは料理研究家じゃないもん。さあ、たんとお食べ」


「うん、ピーマン以外はおいしいよ」


「あーあ、ピーマンちゃんが聞いたら、、絶対悲しむよな。シクシク、ミコトチャン、私ノコト嫌イナノネ、シクシク。パパガオイシク油デ炒メテクレタノニ、シクシク」


「うわ、うっとうしい。ちゃんと食べますよ」


「アリガトー、ミコトチャン、アリガトー」


「もう分かったから、声を裏がえすのはやめて」



結局、ミコトはカレーライス三杯と野菜サラダ、モズクの酢の物を完食した。最初のカレーライスに乗っていたピーマン一個分を食べてしまった後は、ミコトの食を止められるものはなにもなかった。ミコトが空になった皿を前に落着いた様子になったのを見て、父親は冷蔵庫からデザートを取り出す。


「もう、ご飯のお代わりはいいよね。はい、これデザート」


取り出されたのは、ガラスの器に入ったヨーグルトの中にイチゴのざく切りが入っていた。


「うわぁ、きれい!」


「きれいなだけじゃないよ。健康にもいいんだ。はい、どうぞ」


ミコトは、黄金色の器を目の前に置き、色味を楽しんだ後、蓮華で一掬いずつ、丁寧に口に運んだ。カレーライスの時も、あんな風に味わってくれたらいいのに、父親は娘の食べ方の豹変ぶりに呆れかえっていた。


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