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ミコトのドーグー!  作者: あいうわをん
第2章 埴輪(はにわ)のパピプペポ
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この遠足は失敗でごわす!



「日野さん?またぼーっとしてたでしょ?今度は、何、考えてたの?」


「いや、大したことではないです」


「まあいいわ、五年生を動かすわよ。日野さん、五年男子を手なずけているみたいだし、あいつらを車に入れてよ。私、シートを車に運ぶから」



ミコトは、はーい、と間延びした返事をして、アスファルトにへたり込んでいる五年男子のそばに行って車に誘導し始めた。


「おーい、日野―、俺達六年はー?」


「六年は歩いて帰りまーす」


「えー、もう疲れたよー、もう動けないよー」


「それだけ騒げれば、歩いて帰れるよね!」



ミコトは騒いでいる川村幸治を放っておいて、五年男子を担任・宮本が乗って来た車へ誘導し乗せていった。車の運転席には教頭が、助手席には校長がすでに座っていた。



「さあ、五年生は車に乗って。朝、はしゃぎ過ぎたからだよ、こんなに疲れちゃったのは。今度から先生の言うことちゃんと聞いときなさい、わかった?」



五年男子は疲れきった声ではぁーい、と返事した。担任・宮本もビニールシートを詰め終わったらしく、運転席のところまで行き、校長と話をしている。


「それじゃあ、後はよろしくお願いします。くれぐれも事故のないようお願いします。日野さん、そっちのドア閉めてー!」


ミコトはドアを閉める前に、五年男子諸君に軽く手を振って笑って、それじゃあね、バイバイ、と挨拶した。五年男子は全員、日野さん、お先にシツレーしまっす、と挨拶した。体操服姿でも美人は美人だなあ、皆が皆、頬を赤くした。




 教頭の運転する車が出発し、残された者は呆然と見送った。どうして、俺達、私達は車に乗れないんだろう?ただ比較的元気というだけだから?そんな疑問を吹き飛ばすかのように、六年担任・宮本が、そこに残っている子供たちに発破をかける。


「さあ、あと一時間で学校に着くわよ。トイレに行きたい人は」


「先にイットイレー」


川村幸治が駄洒落で返す。ミコトは、その駄洒落はパパが何度も使っていますよー、そう囁く。


「くだらないことを言う元気はあるみたいね。いいわよ、今はそれでも。五年生はどう?」


「あたし達なら、大丈夫です。だって柳井さんがいるからー」


「柳井さんってホント、かっこいいですよねー」


「柳井さーん、誰か付き合っている人、いますか―?」


「柳井さーん、キスしたこと、ありますかー?」



柳井圭治の周りには五年生女子が群がっている。囲まれた男の子はちょっと困ったな、と言う顔をしていた。あの顔は見たことがある、教室で山口真央が柳井圭治に矢継ぎ早に質問している時に見せる顔だ。誰かどうにかしてくれないかなあ、そんな感じで辺りを見回していた。ミコトは、一瞬柳井圭治と目線があったが、澄ました顔でそれをやり過ごし、紙コップを片付けていた。やり過ごさなかったのは山口真央である。


「ちょっと、あなた達、離れなさいよ!柳井君困ってるじゃないの!」


五年女子達も黙ってない。一対六ではさすがの山口真央も喧しさにおいてかなわない。


「ちょっと、助けてよ、ミコトちゃん!」


「マオちゃん、五年生を敵に回そうとするからだよ、一緒になって話をすればいいんじゃないの?」


山口真央は、!、その手があったか!という表情をした。柳井圭治は?、なんでそんなことを言うの?な顔だった。


「ちょっと、日野さーん?」


「まあ、今日は観念することね。いいじゃない、ケイジ。たくさん女の子に挟まれて、本望でしょう?」

それまでざわついていた五年女子は、ミコトの声で一瞬静かになった。次の瞬間、ざわつきは静かになる前よりも大きくなった。


「柳井さーん、この人カノジョ?やけになれなれしいんですけど?」


「柳井さんって、ケイジっていう名前なんですかー?かっこいいですねえ」


「この人、石川とかと話してた人だよ、やたらとあいつらに命令していた人。女王様気取りじゃないの?」


「お昼ご飯の時、あいさつしてた人?」


「そうそう、ヒノミコトっていう人」



ミコトは、柏手を打ち、五年女子の注意を自分に引き付けた。


「はいはい、私がそいつをケイジって呼んでいるのはそいつがそう呼んでって言ってるから。みんなもそいつと話をしてごらん。いろんなことが分かるから。さあ、もうすぐ出発するわよ。あと一時間ぐらい歩くけど、道中、聞きたいことを聞きなさい、いい?」


みんな口を開けて聞いていたが、いい?と念押しされたところで、ハイ!と返事をしていた。六年担任・宮本は、一連の出来事を横目で見て、この子が担任やったらいいのに、佐々木なんかよりよっぽど頼りになるわ、心の底からそう思った。こうして、六年担任・宮本のもと、六年と五年女子のチームは神社を出た。

 


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