校長と教頭は・・・しょうがないですな!
気づけば100話を越えていた・・・
「仕方がないですな。佐々木先生と五年生は車で帰しましょう」
「でも校長先生、車は八人乗りですよ。今見渡しても倒れているのは八人いますが」
「子供達は詰め込めば何とかなるでしょう。車は私が運転します」
「いやいや、校長先生に運転させるわけにはいきません。ここは私が」
担任・宮本は開いた口がふさがらなかった。自分達が、もうこれ以上歩きたくないため運転手として車に乗り込もうとしているのだ。児童のことを一番に考えないといけない教育者が、この体たらく!担任・宮本は怒りを押し殺していた。自分のことしか考えない先達に、役立たずの後輩!全員、ぶんなぐってやろうかしら?担任・宮本は大人である。理不尽なことにも耐える必要があることを知っていた。見かねたミコトの父親が、ひとつの提案をした。
「あの、ウチでも車を出しましょうか?三人ぐらいは運べますけど?」
「あ、いやそこまでご迷惑は…」
と言いかけた担任・宮本のよこから、校長がシャシャリ出て来た。
「そうですか、そうしていただけると助かりますなあ」
「校長先生!」
「いいんだ、宮本君。君が二往復するより時間も手間もかからなくっていいじゃないか。日野さんもああ
言ってくださっていることだし」
「でも!」
「いいから、言うとおりにしなさい」
ミコトの父親は、担任・宮本を見て肯いた。ここは私に任せて下さい、と合図を送るように首を縦に振った。どうやら通じたらしい。
「解りました。それでは、座っている五年生六人と校長先生、それと教頭先生は車でお願いします。佐々木と六年の竹下は日野さんにお願いします。私は残りの児童を引率して帰りますので。事故を起こさないよう運転をお願いします」
「車の運転は君がするのじゃないのかね?」
「私が運転したら、誰が児童を引率するのですか?校長先生か教頭先生のどちらかが運転なさってください。ああそれと、その車、レンタルしてるので五時までに返却をお願いします。それと持ってきたビニールシートは職員室に置いておいて下さい。後で私が片付けますので」
校長と教頭はもめた末、結局教頭が運転することに決まった。山道の運転は苦手なんだよなあ、等と教頭はぼやいていた。
一通り五年生の面倒を見たミコトは、竹下愛のところへ戻った。
「アイちゃん、パパが家まで送ってくれるって」
「よかったあ、男の子の中に混じるの、いやだったんだあ」
「アイちゃん、歩ける?佐々木先生も、父の車で学校まで送って行くそうです」
「よかったー、私もハゲ親父の中に混じるの、いやだったのー」
竹下愛は笑った。笑える元気が残っていることが幸いだった。ミコトの父親は担任・宮本を伴って倒れている二人のところへやって来た。
「ほら、佐々木先生。立ちなさい。日野さんが送ってくれるそうですよ」
五年担任・佐々木はふらふらと立ちあがってお礼を言った。
「日野さんのお父さんですかー、格好いいですねえ、今日は二人もいい男に会っちゃった」
「こら!失礼なことを言うんじゃありません!」
「いえいえ、妙齢のご婦人に称賛されるのは、男として光栄の極み、ですね」
「それで、奥様の方は、大丈夫なのでしょうか?風邪だと聞いたのですが…」
「ああ、部屋で寝かしています。昨日先生が帰られた後で、急に熱を出しまして。私が今日は家事をしています」
「ああ、奥様がいらっしゃるんですね」
「当り前でしょ!佐々木、アンタ、何考えてるの?全く、児童のことを考えないで、保護者のことばっかり考えるなんて!」
「まあ、宮本先生、それくらいにしてあげたらどうですか。それじゃ、行きますか。アイちゃんは歩けるかい?」
「うん、大丈夫です」
「それじゃ、行きましょうか。お二人とも。」
そういってミコトの父親は、二人を伴って駐車場から去っていった。神社の裏に隠れている自宅から車の出ていく音が聞こえた。
「さて、問題児は日野さんのお父さんに任せたし、後は五年生を車に乗せようか。それにしても、男の子の方が女の子よりも先に参るとはね」
「去年はどうだったんですか?」
「去年は、たしか半々、だったかしら?」
「子供が倒れても、この行事続くんですね」
「私の一存では決められないの。あのハゲ達、帰りに事故でも起こさないかしら?ああ、それだと子供たちに迷惑がかかるわね」
よっぽど怒ってるのね、だってハゲ達って言って、校長先生達って言い直さなかったもの。ミコトは自分の担任を見た。これが大人っていうものか。怒っても感情を表に出してはいけないのね。可哀そう。パパもそうなのかしら?そういえばパパが怒っているところなんて見たことないな?