宮本に佐々木に・・・次は柳生か!
確かに五十分も歩いたらミコトの家へ着いた。あーあ、また学校へ行って帰らなきゃならないのかー。ここで解散してくれればいいのに。神社の駐車場では、父親が長机に冷水と紙カップを用意して待っていた。子供達が一斉に集まってきて次々にカップの水を飲んでいった。
「パパー、お疲れ様」
「わー、この人、ミコトお姉さんのパパだったんだ―」
「へー、そうかー」
「ミコトお姉さんって神社に住んでたんだ―、すごいねー」
「すごいねー」
「おじさん、お水アリガトー」
ミコトも新入生にコップを貰って水を飲んだ。ミコトの周りに小さい子らが纏わりついているのを見て、父親は少し驚いた表情だった。
「おやおや、ウチの娘は人気者だねー。どうしたんだい?お前は六年生じゃなかったっけ?」
「うん、成り行きで」
「あなたが日野さんのお父さんですかー?お若いですねー」
「そうですが、学校の関係者の方ですかな?午前中には会わなかったと思いますが?」
「この人は、一年生の担任の柳生先生」
「そうですか、失礼しました。日野です」
「柳生博子と申します。神社の神主とお伺いしたのですが、思ったのと違ってお若いですのね」
「ははは、神主はお爺さんだけじゃありませんよ。ところで、どうですか?全員完走、いや、歩いているから完歩してますかな?」
「ええ、今のところは」
「学校まで事故なく行って欲しいものですね。ところでミコト、今晩はカレーでいいのか?」
「わあ、ミコトお姉さんち、今日のご飯はカレーだってー」
「いいなあーカレーだー」
「おいしそうだねー」
「君達の家もカレーかもよー?さあ、トイレに行きたい子は今のうちに行っといで。もうちょっとでお家に着くよー、がんばって帰ろうね」
一年生は口ぐちに、ハーイと返事をしている。何人かはトイレへ行った。父親はそれを見て
「トイレにイットイレー、か。ワハハハハ」
とダジャレをとばした。一年担任・柳生は愛想笑いをしたが、六年生の女の子は笑わなかった。子供達全員が揃ったところで、一年担任・柳生は別れの挨拶をした。
「それじゃあ、失礼します。休憩も終わったことですし。日野さんも六年生のところに戻っていいわよ。今日はありがとう、助かったわ」
「いえ、どういたしまして」
ミコトは小学一年生達を見送った。自分の学年が来る前に、ミコトは自分の父親を問い詰める。
「さてと、パパは私に謝らないといけないことがないですか?」
「はてさて、いったい何のことですかな?」
「とぼけないで!お結びの中にチョコレート入れてたでしょ?」
「さあ、なんのことだか、あっしにはさっぱり?」
「残念でした、私は食べてませんよ。人にあげちゃったから」
「なんだ、そうなの?残念だなあ。チョコ入りお結び食べた子、びっくりしてた?」
「すっごく喜んでた!」
「それはそれは……嬉しいやら残念やら」
「もう!パパに頼まなきゃよかった。ところで、ママの具合はどうかな?」
「うん、まだ熱が残ってる。今日いっぱいは寝かせておくよ」
「ウチの風邪、学校のみんなに広まったりしないかしら?」
「ウチの外に出てないんだし、それはないんじゃないかな?」
ミコトは、そうだといいけど、と言って使われた紙コップを片付け、テーブルを拭き、新しい紙コップに冷水を注いだ。次の三・四年チームが神社の駐車場に着いたからだ。
三・四年チームも休憩を終え、神社を出発した。次は五・六年チームがすぐに来る、そう思っていたミコトは意外に長く待つことになった。
「おかしいなあ、一・二年が途中遅くなったせいで三・四年と一緒になったと思ったのに」
「へえ、そんなことがあったんだ」
「私、ちょっと様子を見てくるね」
そう言い残して、ミコトは来た道を引き返していった。後には父親が残された。あの子は疲れと言うものを知らんのかな、そんなことを呟いた。
 




