変なモノ、もうでました!
巫女装束に着替えたミコトは、社の中にある倉庫に入った。倉庫の中は、いつもは暗くてほこりっぽいが、今は父親が掃除中なのでそれほどでもない。
「パパー、来たわよー」
「やあ、相変わらず袴姿が似合うねえ、ミコトは」
「それで何をすればいいの?」
父親は、娘をほめたことを軽く受け流されてことにがっかりした。が、気を取り直して言った。
「寂しい返事だなあ、もっとさ、あらパパありがとっ、とか、やだパパったら、ほめても何もでませんよ、とか言ってよ」
「ヤダパパッタラ、ホメテモナニモデマセンヨ」
「そんな、片言で返事しなくてもいいじゃないか」
「だって、面白くないんだもん」
「つれないなあ、ミコトは。もうちょっとパパにやさしくしてよ」
「いつもやさしくしてるじゃない。じゃなかったら、お手伝いなんかしませんよ」
「ああ、言い方がママに似てきたねえ。やっぱり親子だな」
「ねえ、パパ」
「何だい?」
「ママのどこがよくって結婚したの?」
少し間を開けてから父親は言った。
「そりゃ、何もかもさ。全部ママのことが好きだから、パパはママと結婚したんだよ」
「私ってママに似てるの?どっちかって言うと、パパ似じゃない?髪の毛もママみたいに真っ赤じゃないし、スタイルも良くないし」
「髪の色はともかくとして、スタイルは、これからどんどん良くなるよ。ミコトはまだ小学生だろ?これから、これからだよ。さあさあ、そんなことよりお片付け、お片付け。手順はいつも通りだよ」
「上からハタキをかけていって、下まで済んだら今度はぞうきんで乾拭き」
「それが終わったら、外で虫干ししてる物を中にいれて。ちょうど終わるころにはおやつ時になるだろう」
「はーい!」
「ん?おやつと聞いたらとたんに元気になったね。それじゃあ、始めようか」
おやつが元気の素とは、まだまだ子供だな、そう思いながら父親も掃除を始めた。
掃除というものは、始める前は億劫に感じられるが、ひとたび始めると時を忘れてしまうくらい熱中するものらしい。ミコトとその父親も喋ることなく体を動かしていた。特に娘の方は我を忘れて床を拭いていた。床の大半を拭き終わり、あと一隅を残すのみとなったとき、ミコトは一息つくために顔をあげた。すると前の方でキラリと光るものを認めた。
「パパー、ガラスが割れてるよー」
娘の呼ぶ声に反応して、父親がやってきた。
「本当だねえ、窓ガラスが割れたのかな?」
とのんきに言って明かりとりの窓を見上げた。見事に割れた跡を二人は認めた。
「鳥でもぶつかっちゃったのかな?ミコトは危ないからさがってなさい。割れたガラスには触らなくていいから」
と言うと、父親はさてどうするか、と思案した。ミコトは父親の背後から離れた。後ろの方にガラスの破片が落ちていないか、と心配したからだ。きょろきょろと見回してみたが、特にキラキラするものは見当たらなかった。その代わりに鈍い、土色のモノを発見したのだった。