第一夢
夢というものは儚いものだ。
香りのように薫って消えていく。
第一夢
紺碧の空と漆黒の海が広がっている。
そこに生物らしきものといえば私と私の目の前にいる男の子以外見当たらない。私はその子のことを知っていて、その子に1つ聞きたいことがあることも知っていた。どうして遠くへ行ってしまったのか、と私は聞いた。その子は少し困ったように小首を傾げてこう言った。
「どうしてだろうね、僕も分からない」
「分からない?」
「そう、分からない」
私はその言葉にムッとしてまた聞いた。
「どうして?」
その子はキョトンとしてからふっと微笑んだ。まるで、君はそういう子だったね、とでもいうかのように。
「ほら、君は紺碧の空。僕は漆黒の海。正反対のもの同士がわかりあうことなんてありはしない。そんな時はこの世界で永遠に来ない」
私の上に広がる紺碧の空がその子の奥に見えた。
私の下に広がる漆黒の海がその子の奥に見えた。
私は息を飲んで、それから、一気に吐き出した。そうか。
「交わることなんてありはしない」
私のその言葉を聞いて、今度は安心したかのように笑った。そして言うのだ。
「それじゃ、僕は眠るとするよ」
私は黙ってその言葉に頷いてみせた。その子は何かを言おうとしてやめた。私はその言わなかった言葉がどんなものか知っている。
男の子は徐々に繭となっていく。
「おやすみ、そして、さよなら。永遠に会うことのない姉弟よ」
繭はゆっくりと沈んでいった。漆黒の海へと沈んでいった、あの絶望という恐ろしいところに沈んでいった。