9話ナイフコレクター
ネットカフェ〈@〉。
駅前にたつ古ぼけた建物の四階にそこはあった。
四階から最上階までの四フロア全てを使ってあり、個室席とそうでないオープン席を含めると約350席も有している場所だ。
店内は全体的に薄暗く、四階のカウンターはブルーライトで照らされていた。
これで派手な音楽でも鳴らしながらミラーボールでもおけばディスコだなと月宮は思った。無論彼自身ディスコには行ったことがない。映画やドラマで見た限りの知識である。
ちょうど長身の男が会計を済ませて店を出ようとしていたところだった。
芥川はユラリとした動きで男に道を譲るが、ちょうどその後ろにいた月宮は肩をぶつけてしまう。
「すみませ……」
瞬間、男にガシリと腕を掴まれた。
「何も盗ってないな?」
静かだがドスのきいた凄みのある声。
……な、なんだこの人……。
五月だというのにロングのコートを見にまとうその男の気迫に圧倒され、月宮は言葉も出せずただただうなづくばかり。
何よりこの男、今は誰の顔にも変身させていない真っ白い仮面をつけている不審な月宮を意にも介していない様子だ。
やがて男は月宮の態度を見てスリではないことを確信すると、エレベーターに乗って店を後にした。
少し首筋から冷や汗を垂らしていた月宮の肩に芥川は優しく手を添える。
「危なかったですね。彼は〈ナイフコレクター〉と呼ばれるその筋では有名な方です。少し変わった職業につかれている方で、何か人に恨みをはらしたい際にはあの方を尋ねるといいでしょう」
いったいそれは何屋なんだと思ったが、月宮は聞かないことにする。
「月宮さん。この店はあのような方が多く利用するので気をつけることをおすすめします。といってもそれさえ目をつむればここはあなたのような方にとっては楽園ですよ」