第8話 20面相のデスマスク
「やった!これで元の生活に……!」
「とはいかないんですよねえ」
芥川の言葉と同時に月宮の顔が――正確にいえば顔につけている仮面が変化する。
目や鼻のパーツが勝手に移動を始めてぐちゃぐちゃになりはじめたのだ。これではまるで正月の福笑いである。
「一定の時間がたてば顔が保てなくなってしまうんです」
「それじゃあ意味ないじゃん!」
「ですが死人の顔なら別です」
死人の顔?
それはつまり。死亡した人物の顔ならいつまでも変身できるということだろうか。
月宮は試しに既に亡くなった歌手の顔を思い出してみる。
「おお。マイケルジャクソンだ!」
その顔はいつまでたっても元のまま変化がなく勝手に崩れたりしない。
「というようにそれは死人の顔にならいつまでも変身させることができます」
でもどうして死人の顔なんだ……。月宮の疑問に答えるように芥川は口を開く。
「きっと死という部分で深くつながっているのかもしれませんね。何しろそれは……」
芥川は少し含ませるとこう言った、
「怪人20面相のデスマスクですから」
怪人20面相。それは明治の日本を震撼させた希代の大怪盗だ。
変装の達人で自らの顔を二十種類の顔に作り替えることができるために二十面相と呼ばれていた。
でもしかしそれはあくまで逸話のはず。
名探偵明智小五郎と繰り広げた攻防は全て架空の物語のはずだ。
芥川曰く死後に顔の型をとられて、かつその皮膚がこのマスクに使われているというがそんな話は到底信じられる話の範疇を超えている。
「二十面相はたしかに存在していましたよ。現にこの世界には人の顔をとるという信じられない輩が存在するじゃありませんか」
月宮はあのツギハギだらけの女を思い出す。
「月宮さん。あなたはあの〈フェイスコレクター〉の被害に遭われた哀れなお方だ。お代はちょうだいしません。どうぞその仮面を使って有意義な人生をお送りください。ひとまず今夜のところはあなたを安心できる寝床へとおつれしましょう」
そう言って芥川は月宮を連れてとある場所へと向かった。