第7話 異能
「それを手に持ったまま自分以外の顔を頭に思い浮かべてみてください」
月宮は目をつぶってとりあえず言われたとおりに母の顔を思い出す。
のっぺらぼうである僕の姿を見た時のあの怖がった表情を思い出すのは簡単だった。
ピリリと静電気が走ったような感覚が手に伝わる。
目をあけるとそこに母の顔があった。
楳図かずおが描いたようなもの凄い形相である。
「うわああああッ」
母の顔を持っているという事実に頭が追いつかず、思わず叫んでそれを地面に落としてしまう。
「ちょっとダメですよ月宮さん。商品は大事に扱っていただかないと……」
芥川はひょいと拾い、ついた砂を払うと再び月宮に仮面を手渡す。
あれ……?
しかし手渡されたときには仮面は母の顔をしておらず、元の白い仮面のままだった。
「どうです?凄いでしょう。これがあればどんなイケメンにだって思うがままに変身することができますよ。あなたのような顔のないお方でも」
ふと念じれば月宮の手の中で仮面の表面がぐにゃりと変化する。水彩画のように不思議な模様を浮かべたかと思えば次の瞬間仮面はテレビでよく見る俳優の顔へと変わったのだ。
「それをつけるのに紐はいりません。ちゃんと肌にフィットするはずですよ。つけてみればわかります。全く違和感のない新しい顔になるのです。それだけでなく仮面を通してなら声も変化させることができます。先ほどあなたも聞いたでしょう?」
月宮は芥川が天音に変身していたのを思い出す。
顔も声も本人と全く同じ。そういえば身長や体型が違っていたな……あの時は気づかなかったけれど……。
ともあれ信じられないがこの仮面は本当に好きな顔へと変身する力があるのだ。
だったらこれがあれば元の顔に……!
月宮が仮面を着用すると、すかさず芥川は手鏡を用意した。
凄い……と素直に月宮は圧巻される。
本来のっぺらぼうの彼には目や歯がないはずなのに、仮面をかぶればそれがすっかり元通りなのだ。
それに仮面と肌の継ぎ目も全く見えなくなっている。もうこの仮面自体が体の一部として合体しているのだ。
「やった!これで元の生活に……!」
「とはいかないんですよねえ」