第5話 天音 唯
まさかと思って月宮はとっさに自らの顔を隠す。
「うそだ……もしかして、天音、さん?」
指と指の間に隙間をつくる。
見れば本当にそこにはクラスメイトの天音唯が制服姿で立っているのだ。
なんて偶然な……こんな時間に……そもそも彼女とは近所じゃないのに……。
「もしかして月宮くん?どうして、ここに?」
それはこちらの台詞だと思ったが月宮はこの偶然を神の奇跡だと感じた………だが同時にこれは呪いでもあると思った。
だってこんな顔を見られたら、もう天音さんは………。
「どうして……顔を隠しているの?」
天音はためらいもせずに僕の顔を隠す手をどけようとする。彼女はそういう他人に触れることに一切の躊躇がない人間だ。学校でもよく誰とでもスキンシップをとる。それが彼女の魅力の一つでもあるのだが。今はやめてほしい。
月宮はさっと身をひいてそれをかわした。
「天音さんはきっと後悔するよ。俺を見て怖がる」
彼女に拒絶されてしまえばもう俺は生きていけない。
今度こそ本当に死を選ぶ。
だからこそ、もう会えなくてもいい、彼女に拒絶されるくらいなら自分から拒絶する。
そう月宮は思っていた。しかし。
「大丈夫だよ」
彼女の優しい声で揺れた。
「私は月宮くんがどんな姿でも受け入れるから」
真剣な眼差しでそう話す彼女を見れば、この手を開きたくなってしまう。
だめだ。今の俺はのっぺらぼうだぞ!
母の拒絶した目を思い出す。もうあの目は見たくない………でも。
月宮の体から力がすっと抜ける。
もしかしたら……もしかしたら天音さんなら……。
本当に受け入れてくれるかもしれない。
そう思って、月宮はゆっくりと両手を下ろ――――。