第3話 こうして少年は顔をなくした
女と横切る瞬間、月宮はつい興味本位から目だけを動かして女のフードの中を見てしまった。
それがまずかった。
月宮はギョッとして息を飲む。
女の顔があまりにも醜かったからだ。
不細工とかそういうことではない。
むしろ〈何もなければ〉美少女の部類にはいるほどの顔だった。けれども月宮はその顔を見ておぞましいとすら感じた。
傷と痕。女は顔中ツギハギだらけだったのだ。
ブラックジャックですら驚きの声をあげるだろう。
当然月宮も驚いた。そしてその様子を女に気づかれた。
目と目が合う。
相手の瞳孔が開いた。
次の瞬間、月宮は強い力を感じて地面に押し倒された。
驚きのあまり何も反応できない。
女はその隙に月宮の上にまたがると彼の顔面に手を当てて吐息まじりにこう囁いた。
「あなた素敵よ……ねえ……その顔ちょうだい……!」
そこからはよく覚えていない。
色めいた女の息づかい。今までに聞いたことのもないような音とともに、初めて感じた〈顔から何かが剥がされる感覚〉。
女が月宮を押さえつける力は強かった。非力な彼が到底かなわないくらいに。
それでも何とか押し飛ばして月宮は逃げた。でもそれは全てが終ったあとだった。
……俺の顔がない。
顔を奪われた少年の物語はここから始まった。