19話拘束と脅し
天音と別れて、月宮は一人で夜の繁華街を歩いていた。
ブラブラとあてもなく。
心が気持ち悪かった。
モヤモヤと何かが渦巻いている。
あんな約束して何考えんだろ……。
天音の笑顔が忘れられない。
でも彼女の思いは相楽にあるのだ。
何を勘違いしてるんだ、俺は。
例え笑顔を向けられても、それは俺に向けてのものじゃないっていうのに……。
そう考えれば考えるほど相楽に偽装してあるこの顔が嫌になってくる。
早いとこネカフェに戻って偽装を解除しよう。
そう思っていた月宮の前にスッと女が現れる。
「少しいいかしら」
………しまった、油断した!
ツギハギ女である。
「プロなら誰かに化ける時、一瞬で服装も着替えるものよ。残念ね。私の目はごまかせんでした」
女がニッコリと笑う。
……偽装を看破して尾行されていたのか!……
咄嗟に月宮はポケットにいれていた針を取り出す。
迷うなよ。肩だ。肩を刺す。ここは怪我をさせて逃げ……。
「針なんて使うの?かっこいいわね」
いつのまにかツギハギ女が針をその手でもてあそんでいる。
まさかと思い、月宮は自らの手を確認する。そこに握っていたはずの針がなかった。
……いつのまにとられたんだ……!
「こんなところであなたを殺したくないわ。おとなしくしていれば危害は加えない。私についてきてくれるわよね?」
ツギハギ女はそう言って手に持つ針を月宮の首に押し当てた。
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ツギハギ女に脅され連れていかれた先はカラオケボックス。
部屋には裏路地でみた眼鏡の男もいた。
青を基調としたスーツを身にまとっている。
彼の斜め横に座らされる。間にはテーブル。だが彼とはすぐに手の届く距離にある。
彼の膝で一匹の黒猫が寝ていた。裏路地で、月宮が発見された原因ともなった猫。あれはこいつらのペットか何かか……?
「さて」と眼鏡の男が口を開いた。
彼から発せられるピリリとした空気を月宮は感じる。
「君はどこの差し金か?顔を瞬時に変えたそうだが……」
ぴっと男は月宮の顔を指さす。
「もしかすると今君は我々の〈遺産〉を使っているんじゃないか?その怯えた表情を浮かべているそれは、もしかしてマスクだったりしないか?二十面相のデスマスクなんてことが………ああ、一つ言い忘れていた」
ダンッ!と音がしてナイフがテーブルに突き立てられる。
持ち手が不思議な模様で装飾されたものだ。
「俺は怒っている……!変に時間を稼いだりしてみろ。わかるな?」
眼鏡の奥の鋭い眼光は、脅しがどれだけ本気なのかを物語っていた。




