18話重ねた嘘
簡単には信じられない。だが天音が途端にポロポロと涙を流し始めたのを見て話が真実味を増してくる。
何より仮面の顔がいつまでたっても崩れない。その事実が相楽の死を物語っていた。
「転校して大きい病院に入院したけど……症状が悪化して……それで……」
泣きながら、必死に言葉を紡ぐ天音を見て、……泣いてる顔も綺麗だな……なんて不謹慎にもそう思ってしまう。
それにしても相楽死んだのか……。
いくら嫌いな相手だとしても知ってる相手がもうこの世界のどこにもいないと思うと複雑な気持ちだった。
「でも治ったんだね……よかった……ごめん……ごめんね。泣いたりして。困るよね」
月宮は少し嫉妬を感じていた。
死んだ相楽に対して。
人前で涙を流すほど彼女は相楽のことを思っていた。それがうらやましい……。
「今はどこに住んでるの?」と泣き止んだ彼女は質問してくる。
嘘で返さなければ。
「その……今は一人旅をしていて」
「旅!?こ、怖くないの?その、一人で旅なんて……」
「親が過保護ぎみだからさ。病気も治ったし、もう大丈夫だってことを知ってもらいたかったのもあるかな……」
よくもまあスラスラと嘘が出てくるものだと月宮は自分の舌に感心した。
「凄い……一人旅なんて絶対に私できないよ……」
うん、俺も。
「いつ町を出るの?」
「えと……明日……」
そう言うと天音は寂しそうに「そうなんだ」と言葉をこぼした。
彼女ともっといたい……けれど嘘は長くはもたないだろう。
そろそろ別れなければ。
月宮は適当なことを言って店を出ようと思った。
けど、天音が彼の袖を掴んで離さなかった。
「次はもう会えないかな……?」
彼女の目線は下を向いていた。
何かを恐れるように。
この目を月宮は知っている。
これは……拒絶されたくない目だ……。
「もう少しこの町にいるよ」
気づけば月宮はそう言っていた。




