17話あいつは死んでた
とっさの判断で顔を偽装するまではよかった。だがその相手を間違えた。
あの全力疾走の最中、最初に思い浮かべたのは自分の顔。マスクは生者の顔でも一定時間なら偽装可能だ。
しかしあのツギハギは俺の顔を奪った張本人なのだから目をつけられてしまう。
だったら……と次に考えたのが相楽啓の姿だった。
少し垂れ目でおとなしそうな顔立ち。
天音の心を射止めている彼を月宮は嫌っている。だからこそ逆にその姿が鮮明に記憶の中で残っていたのかもしれない。
でも、まさか学校返りの天音さんと遭遇するなんて……。
「ねえ相楽くん」
天音の問いかけに月宮は反応が少し遅れる。
他人の名前を呼ばれて言葉を返すのは月宮にとって初めての経験だったからだ。
今二人は町中の喫茶店へと足を運んでいる。少し話したいという天音の提案だった。
「少し見ないうちに変わったね。身長とか……髪も切った?」
「う、うん。思いきって……」
あくまで相楽と同じなのは顔と声だけだ。身長も本人より高いし、髪の感じも違う。トレードマークの目元まで隠れた前髪がないのだから天音にとってはまるで別人に見えるだろう。
実際別人なのだが。
「もう……会えないと思ってた。こっちにはいつ帰ってきたの?」
「えと……1週間前かな……」
「まだ薬は?」
「え?薬?……ああアレね。飲んでないよ」
薬というのが何のことかさっぱりわからないが適当に言っておく。
「じゃあ治ったんだ」
「うん……そんなかんじ……」
どうも嘘をつくと歯切れが悪くなってしまう。
天音と話ができることはとても嬉しかった。正直月宮的には嘘をついてでも彼女と過ごせる時間が幸せだった。でもこのままではじきに嘘はバレてしまう。
生者の顔は一定時間で崩れて……。
「よかった、相楽くん……私、君のこと亡くなったって聞かされてたから……」
……なんだって?相楽が死んだ……?




