16話偽装した相手は
月宮は驚いたように自らの顔に触れる。正確にいえばその顔を装っている仮面に。
……じゃあどういうことだ?このマスクは芥川さんに貰ったものだけれど、もともとはあいつらの物だってのかよ………。
もっと詳しく状況を理解しないといけない。そのためには尾行を続ける必要があるな……と月宮が考えていたその時だった。
ニャ~と突然と猫の鳴き声。
思わず月宮が目を向ける。彼の横に猫がいた。
黒い野良猫がニャ~ニャ~とひたすら月宮の横で鳴いているのだ。
……なんだ、この猫。俺から魚の臭いでもすんのかよ……あ、しまった……
ツギハギ女が月宮を見ていた。
それに気づいて、心拍数が一気に跳ね上がる。
くそっ!!
反射的に月宮は逃走を開始した。
ヤバい連中……捕まれば何をされるかわからない……まずいまずい!
背後からは追ってくる足音。
月宮は頭をフル回転させて何とか逃げ切る方法を模索する。
……通りに出れば人は多い……別の顔に偽装すれば……!
月宮は走りながら瞬時に顔を変える。
それから大通りに出た途端、立ち止まってクルリと方向転換。ゆったりと歩きながら視線は宙に。
ツギハギ女はそのまま月宮のことに気づかず通り過ぎて行く。
完全に行ったことを確認すると月宮はふうと一息ついた。
……あっぶねえ……何とかうまくいっ―――。
腕を掴まれた。
一瞬、頭の中が真っ白になる。
……まじで?……バレた?……眼鏡の男……?
だが掴んだ腕は細く白い。
「相楽くん……だよね?」
月宮は自らが変身する相手にどうしてこの男を選んでしまったのかと後悔する。
天音唯がそこにいた。
今度こそ本物の。
そして月宮は彼女の意中の相手に偽装してしまっていた。




