13話 やつが来た
ああ、天音さんに会いたい……。
そう考えていると、いつのまにか月宮の顔が天音に変身していてハギモトは大笑いをする。
「そいつが坊主の彼女か!」
「違いますよ。そんなんじゃないです」
慌てて月宮は無心に返り、顔は白い仮面となる。
「なんだ片思いか。男ならビシッと告白しろや」
「告白ならもうとっくにしましたよ。ふられちゃいましたけど………この顔じゃあセカンドチャンスもないし……」
「何言ってんだよ。坊主にはその仮面があるじゃねえか」
そう言われて月宮はそういえばそうだなと気づく。
死人の顔なら自在に変化させることができるのだ。セカンドチャンスどころか、告白してふられても何度だって無限コンティニュー可能じゃないか!
「だからな。その相手の好みさえ調べて、あとはそれに似た顔を見つけてくるだけですむ話しだろ?あ、そうだ、尾崎豊!尾崎豊になって15の夜でも歌えばどんな女もイチコロだろ!ぬ~すんだバ………」
そこで控え室の扉が開いて「ハギモトさ~ん。客並んじゃってるんでヘルプいいですか~」とバイトの女の子が顔を出した。
「おお悪い」と彼はすぐにクリームのついた口元を袖で拭いて控え室を出る。
………天音さんの好きなタイプか……と、月宮は彼女の姿を思い浮かべた。
実は月宮は天音の好みを知っている。厳密にいえば彼女が好きな相手を知っていた。
相楽啓。それが天音の好きな男だ。
高二の夏までクラスメイトだった男で、かなり地味なタイプだった。いつも教室のすみで本を読んでいるやつ。前髪が目元を隠すほど長くてそれがまた陰気な雰囲気に拍車をかけていた。
そんなやつに天音はいつも話しかけていた。
………あいつのどこがそんなに良かったのだろう。
でも相楽は転校してしまった。
天音の泣き顔をまだ覚えている。
そこまで彼のことを思っていたということだろう。彼女の涙を見て嫉妬にかられたことが月宮にはあった。
どうせいなくなるなら彼女にこっぴどく嫌われてしまえばよかったのだ。そうすれば彼女はお前のことなんてきっぱり忘れられたかもしれないのに……。
「おい坊主………!」
ふと控え室に入ってきたハギワラに声をかけられる。
何だか様子がおかしい。
………なんでヒソヒソ声なんだろう……
ハギワラはなぜか引き出しから針を取り出して月宮に手渡した。
「殺れ坊主。奴だ……!フェイスコレクターが表にいるぞ!」




