邪教信者ハギモト
「月宮さん。この店はあのような方が多く利用するので気をつけることをおすすめします。といってもそれさえ目をつむればここはあなたのような方にとっては楽園ですよ」
そういって芥川は店員に月宮を紹介した。
月宮はその中年店員の顔を見てまたもや驚きのあまり言葉が出ない。
なんとその店員の顔には顔中に針がささっていたからだ。
ツギハギだらけといい、針だらけといい、月宮からすれば別世界に飛ばされたかのような感覚を覚えてしまう。
「おいガキ」とその針だらけの店員は客である月宮に対して遠慮ない言葉をかける。
「俺のことヘルレイザーなんて呼んでみろ。鼻を削ぐぞ。あれに出てくるやつと俺は別物だからな」
ヘルレ……なんて?
あとでわかったのだが、どうやらホラー映画に彼と同じような容姿をしたキャラクターがいるらしい。
「ハギモトさん。お客様を怖がらせるのはよしましょう。大丈夫ですよ月宮さん。彼は美容のためにああやって顔中に針を……」
「んなわけねえだろ。美容のためにこんなクソ痛い真似するかよ。これはだな坊主、この痛みを偉大なる苦痛の神ムヌ神に捧げることによって……」と言いながら店員ハギモトは刺さっている針をちょんちょんと自分で触っている。
……全くもって意味がわからん、と月宮は彼の話を聞き流した。
「だからヘルレイザーに出てくるあの野郎とは違うわけでな。もし言えばお前の鼻を……」
「ハギモトさん。彼に鼻はありません」
そう言って芥川に促され、月宮は仮面を脱ぐ。何もない肌色の顔面を見てハギモトは「か、顔がねえじゃねえか!」と驚いた。……いや、針だらけのお前が驚くなよ……。
「おい芥川!そういうことはもっと早く言え!かわいそうに……誰にやられたんだ?皮剥ぎか?ダーティーのクソ野郎か?それともコレクターか?ああかわいそうに」
ハギモトは知らない単語をまくしたてると、かごを用意してそこにタオルやら歯ブラシやら日常用品をいれ始めた。
「個室の642号席を使ってくれ。なんなら住んでもかまわない。お金はいらねえよ。この店はあんたみたいな不憫な被害者からは金をとらない決まりなんだ。ドリンクバーにはソフトクリームも置いてるからな。いくらでも食べていいからな。ああこんな子供がかわいそうに、なんて時代なんだ」
そう言い残してハギモトはオンオンと泣きながら従業員専用の控え室へと消えてしまった。
そこまで俺のために悲しんでくれるなんて……。
月宮も感無量である。
「いえいえ月宮さん。彼の信奉する宗教は痛みや不幸といったものを崇めていますからね。彼はあなたを羨ましがっているんですよ、そして同時にどうして自分もそうならなかったんだ、羨ましい、と悲しんでいます」
なんて奴だ!
もらい泣きしそうだったがその涙も今の話でひっこんだ。




