閑話 冒険者たち
「ッキショオ、また行き止まりかよ!!」
ガンっとそれなりの力で壁を殴りつけるも、一欠けらと砕けることもない。
「ちょっとラグオン! 八つ当たりなんてしてないで戻るわよ」
パーティー、“破魔“。上から数えた方がいいAランクパーティーである。
「わぁってるよ! くそ! この壁さえ壊せられりゃあよ」
仲間の魔法使いのレミアの小言に八つ当たりで壁を二度三度と小突くも全く崩れる気配はない。
「無駄よ。迷宮の壁は壊せないってのは冒険者にとって常識じゃない」
レミアはため息をつく。
「そもそもリーダーが初心に返って迷宮に潜りなおすぞって言ったんじゃないですか。龍退治の後で疲れてたから反対したのに」
回復術師のミリアも文句を言う。
「まぁまぁ、そう言うなって。龍退治であんな小さい子に護られるような形になって思うところがあったんだよ」
そう言ってラグオンを庇うのは大盾でパーティーを守ると同時に敵の注意を引き付けるタンク役のバルクだ。
最もかばいだてする言葉がラグオンにダイレクトアタックを決めているのだが。
「あのお嬢ちゃんの“壁“もすごかったよな」
寝転がった態勢のままラグオンがぼやく。
「ええ。私も壁魔法は使えるわ。むしろ初級の魔法であり、おおよそ魔法使いの真職持ちなら使えない方が珍しいわね」
レミアもその点には同意だったらしく、話にのってきた。
「だけど土や水といった質量のある壁は守りとして優秀な半面、操作は難しく、時間がかかるといった一面があります。龍の攻撃を防いで……しかも異常なまでの構築速度と範囲……まぁ少なくとも“固有職“でしょうね」
真職の話は冒険者にとって話題の種である。ミリアも興味があるのだろう。話に参加してきた。
「あの子攻撃してなかった」
そう、ユーリは味方への攻撃を防ぐばかりで手は出さなかった。それゆえ自分の分け前を主張しなかったが、即席のメンバーが瓦解せずに済んだのは彼女のおかげだと誰もが思っていたが、頑なに固辞されたのだ。
龍の肉は振る舞われ、爪や牙は戦った者たちに分配された。
もちろん、喜ぶ者もいたが、中には気まずく思う者もいたのである。
「ていうかですよ? あの子ソロなんでしょ? 勧誘しちゃえば良くないですか?」
「天才かよ……」
ミリアのぶっちゃけにバルクが驚愕する。
「でしょでしょー。あ、でもあの子がパーティーに入ったらバルクいらなくない?」
「な! いや、でも魔力にも上限があるし……」
「あの戦闘の途中からずっと使いっぱなしだったし」
バルクが泣きだしそうになったところでラグオンが、
「どっちにしろ迎えるにしても立場ってものがあんだろうがよ。今のままじゃ、うちのパーティーを配下に加えてくださいって感じじゃねーか」
確かに力量を鑑みれば、そうとらえられなくもないだろう。
「でもあの子、Bランクなのよね?」
「……お前、天才かよ。バルク、今までありがとな!」
そう言って腕を突き出すラグオン。
「なんてな。バルクのいない
パーティーなんて考えられないぜ。冗談はこのへんにしてそろそろ行くぞ」
さよならの握手ではなく、起き上がらせるためだったらしい。
「はいはい、ってか勝手に休憩したのはアンタでしょうに」
と腰に手を当ててため息混じりに言うレミア。
「……残念」
そしてミリアは半ば本気だったらしく、残念そうにしている。
「うおおおーん、やっぱり俺の味方はラグオンだけだー」
「よせ! お前は大事な仲間だが、俺にそっちの趣味はねぇ!」
ラグオンに全身鎧で抱き泣きつくバルクと引きはがそうとするラグオン、魔物に出会うまでその攻防は続いたのである。
レミア「バル×ラグか。格ゲーのキャラ名みたいね」
ミリア「ラグ×バル」
レミア ミリア「あ?」
回復術師と魔法使いの音楽性のちがいにより、破魔は瓦解したのであった。
Bad End