二人と二匹、飛び出した後
ユーリたちの行動は早かった。もはや隠す気もなくなったのか真職の力を惜しむことなく使い始めたのだ。
なにを持ち出すか悩むだけ無駄とばかりに、漆黒の闇が拠点としていた建物も倉庫も、カレンの荷馬車すら飲み込んだ。
生き物は無理だというが、二人が移動するために必要であったため、都合がいい。
カレンの相棒である陽馬の“アールヴァク“。怪我をしていた幼体の頃から面倒をみていたためか、非常にカレンに忠実だ。
最初はカレンと親しいユーリへの敵対心からか、威嚇していたが、カレンが頼むと渋々二人を乗せて駆け出した。
元々一頭で荷馬車を引いていたのである。女子供が二人乗ったところでどうということはない。
馬に乗ることに不慣れだったことと、アールヴァクがカレンの言うことの方が素直に聞くため、カレンが手綱をとっており、カレンに包まれるようにして乗っており、いい匂いもするわでユーリの心臓が高鳴っているし、頬も朱い。
告白する前まではどうしていたのか自分のことなのにわからないのだ。
馬上では、経緯を話した。冒険者が王に頼まれて龍の子をさらわせたこと、城の地下を“まる呑み“にしたことなど。
前を向いていたユーリには見えなかったが、カレンの表情が一瞬だけ強張った。
「……聖龍様」
アールヴァクを休ませるために小川の側で休憩をとった際にカレンに引き合わせると、そう呟いて呆然としていた。
そしてユーリもまた呆然としていた。
「本当に龍なんだ?」
「当たり前です! このような尊い姿を見られるなんて!!」
最早ひざまづくきそうなカレンである。
だが、ユーリからすると、ねこスキーにしか見えないのだった。
子龍自体も自分に対する敬意を感じるのか、カレンには好意的なようだ。
「フフフ。ところでこの子の名前はなんというのでしょうか?」
日の光を浴びて、銀色の短い体毛がメラメラと輝いているのをカレンは気持ちよさげに撫で回し、子龍もまた目を細めて気持ち良さそうである。
ねこだろ! と叫び出しそうになるが、カレンに怒られそうなのですんでのところで堪えた。
「名前ねー。そういや聞いてないな。卵のうちに盗まれたって話だからまだなかったのかも。もしかしたら王がなんか言ってたかもだけど」
「ダメです! この子にそんな名前をつけてはいけません! ユーリが名付けて上げてください」
「私が?」
「はい……私はネーミングセンスないって散々言われたんですよね」
俯いてぼそっと呟いた最後の方はユーリには聞こえなかった。
「んー、“キサラ“とかどうかな?」
「キサラちゃんですか! かわいい響きです。あなたもそれでいいですかー?」
カレンのキャラが壊れている。脇? に手を入れて抱えあげた子龍が、最早音でしかないピャーという高音を出すと、カレンは顔を埋めて悶えている。
「この子もそれでいいみたいです。ねぇ、キサラちゃん」
「ピャ♪」
ユーリへと向き直りそう告げるカレンだが、本当にわかっているのだろうか?
休憩を終えて出発する。
周りのものが珍しいのか、あっちへふらふらこっちへふらふらするキサラが危なっかしいいので、生物OKのダンジョン空間へとほうり込むと、カレンがあぁあ、と力ない声を出した。
「ユーリ、アール、急ぎますよ!」
とキリッとした表情で言うのだが、本音は早くキサラに会いたいだけだろう。一人と一匹は珍しく揃ってため息をついた。
夜営になると、拠点にしていた建物をペイッと出す。ダンジョンの力でお風呂もキッチンもなんでもありなのである。
道中聞かされていたとは言え、実際に接してみるとその異常さが際立つ。
「なんでもありね」
「なんだって!」
「だってかわいそうじゃない。親と一緒に寝たこともないのよ」
カレンがキサラと眠ると言ったのである。ユーリはと言えば告白したその日の夜である。
もしかしたら……といつもより丁寧に(普段は大雑把なのでそれほどでもない)洗い、ちょっと可愛い下着を身につけてた。
いつものように半裸でウロウロしたりもしていない。その結果がお預けだと言うのだからさすがに少しかわいそうである。
結局ふて腐れて眠るユーリ。
部屋の中を走り回っていたキサラも電池が切れたようにコテッと寝オチしたのである。
専用のカゴに毛布を敷き詰められたベッドで、お腹を凹ませたり膨らませたりしながら眠っている。
「……こんな時どんな顔をして一緒に寝たらいいかわからないわよ。キサラちゃんのおかげで助かったわ」
普段あまり表情を出さないカレン。真っ赤な顔で嬉しそうに困ったように、照れたように百面相するのを月だけが覗きみていた。




