ユーリ、街を抜け出す
家から出て、表の通りへと向かったユーリが見たのは最低限の荷物を持って、おそらくは街の東門へと、駆け出す人たち。
誰もが慌てており、子連れの母親が押されて倒れる。子供を庇うように覆いかぶさる母親。
群集に押し潰されると思い、この子だけは……と祈り続けるも一向にその時は訪れなかった。
昇り床。隆起し、本来は天井に設置された刺へと押し出す罠。
だが今は母子を人の群れから助け出していた。
「大丈夫?」
そんな声をかけられて、ようやく目を開けた母親は、
「ひぃっ」
と悲鳴をあげる。
気付けば高さにして3mほどのところに急に立っていればそう思うのも無理はない。
「えっと、動くともっと危ないからね」
そう言って、手をとられてようやく落ち着いたようで、
「ありがとうございます。」
とお礼を言った。子供の方は状況が飲み込めていないようであったが、母親の真似をしてコクンと頭を下げる。
突然のことに足を止めた群集も落ち着きを取り戻すと再び急いで動き出す。
それを見た母親にも焦りの色が表れる。
「少しだけ、何があったのか教えてくれない? 目が覚めたらこんな感じでさ、あはは」
「ご存知ないのですか!?」
驚きと呆れの入り混じった表情で答える。
「龍です。先日倒されたっていう龍が番だったらしくて、雄の龍がこちらに向かって来ていると……! 途中の村などは焼き払われたと、人間に非常に怒っているらしくて。迎撃の準備が間に合わないから、住人にはとにかく逃げろと……だから」
チラチラと群集の流れを見る母親。
「ありがとう、。もう行っていいよ。今度は気をつけて」
そう言って盛り上がった地面を下ろすと母親はもう一度礼をしてすぐに駆け出した。
動かないユーリに苛立ちながらも逃げることを優先して舌打ちだけを鳴らして駆けていく。
(私はヒーローじゃない。目の前で困っている人を皆助けてなんかいられない。だけど、守りたい人たちはいる)
真っ先に思いたったのはカレン。そしてグルガンツやフェリアなどの知己だ。
閉じていたまぶたを開くと人の流れとは逆に走り出す。目指すは正門だ。
だがこんな状況だ。当然門は閉ざされているし、門番などに見つかると面倒だ。
正門が見えてきたかどうかというところで直角に曲がる。そして突き当たった、街をぐるりと取り巻く壁の一部が色が変わり地面へと沈んでいく。ぎりぎりピョンと飛び越えるようにして脱出すると、正門にいる人をを避けるようにして南下した。
シャッターのように下りた壁は再び上昇して元の壁に戻ったのだった。




