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プロローグ 防衛戦

「来るぞ! 魔法使いは詠唱待機。」


 鋭く男が叫ぶ。街道沿いの拓けた場所に30人ほどの男女が集まっていた。太陽の光を反射する金属の鎧を着用しているものから全身を覆うローブを身につけ、長尺の杖を両手で掲げ目を瞑り集中しながら何事かを呟く者、そして軽装で佇む者(・・・・・・)


「5・4……1、0、放てー!!」


 (くい)の形状の水の塊が上空へと高速で飛んでいき、派手な爆発音(・・・)を上げる。


「やったか!?」


 たかが水、されど水。圧し固められ、目で追うのがやっとの高速で撃ち出されればそれなりの破壊力を持つ。派手な白煙(・・・・・)が立ち込め、その場にいた者の何人かが気を抜いたのも仕方のないことではあった。


 いち早く異常に気がついたのは指揮をとっていた男だ。打ち込んだのは水の魔法(・・・・)だったのだ。


|爆発音も煙も生じるはずがない《・・・・・・・・・・・・・・・》


「チッ」


 白煙が拡散すると、何もなかったようにソレ(・・)はいた。


 巨大な体躯は強靭でしなやかな筋肉で構成され、その表面は硬い鱗で全身を覆っている。全長10mはあるであろうその重量もそれなりにあるだろうが、物理的に不可能な飛行を可能にしている翼。



 生態系の頂点、ドラゴンであった。ドラゴンは得意とする性質によって特徴が変わる。このドラゴンは全身が緋色、焔を操る火焔龍(ファイア・ドラゴン)だ。


 その爬虫類のような鋭い深紅の瞳孔が地上の人間たちを見やる。


「最初の攻撃でダメージを与えられなかったのは想定外だが、予定通りヤツの注意を引き付けることには成功した。作戦通りに行くぞ!」


 不意打ちの攻撃で全くの無傷。メンバーの動揺を抑えるためにリーダーは叫んだ。


 よく見れば火焔龍の鋭い牙の間からチリチリと焔が漏れている。おそらく龍が得意とするアレ(・・)で水の魔法を相殺したのだ。爆発音は水蒸気爆発、白煙は大量に現れた水蒸気だろう。


「……化け物め」


 他のメンバーに聞こえないように小さくリーダーは零した。


 火焔龍は地面へと着地した。討伐隊の知る由もなかったが、火焔龍は激怒していた。瞳孔までも深紅に染まっているのは火焔龍だからではなく、怒り狂っていたからである。

上空から一方的に焼き尽くしてしまえば圧倒できるものをそうしなかったのは自らの爪、牙で引き裂いてやらねば気がすまなかったからだ。


 だがこれは、結果的に討伐隊にとっては助かることになる。空を飛び続けていられたら攻撃手段が限定されてしまったからだ。


 龍がその腕を振るえば、溶けかけのバターのように地面に幾重もの爪跡が刻まれる。それを身の丈ほどもある大盾の底部を地面に突き刺しながら受ける。その攻撃の隙をつくように剣や槍、斧を持つ者たちが斬りかかる。


「距離をとれっ!」


そして彼らがそうやって時間を稼いでいる間に詠唱をしていた魔法使いたちの魔法が龍へと放たれる。


 彼らは善戦していた。リーダー自身もこのままいけば、と思っていたその時、突如龍がその身を起こし、身体を反らせたのである。


「全員、距離をとれ!」


 事前に説明はしてあった。龍が身体を反らせたら正面から垂直に距離をとれ、と。


 種類に関わらず、龍が得意とする必殺の行動、【吐息(ブレス)】。大気中に満ちているという魔素(マナ)を取り込み、己の得意とする属性因子を付与して放つものである。


 ゆえに回避するしかないのだ。幸い、威力の高さに反比例して攻撃範囲は広くない。直線上を避けるようにと伝えてあった。


 しかし、この場に集うメンバーの実力にはばらつきがあり、大別して3つの反応に分かれた。


 一つはリーダーたち。経験豊富な彼らは相手の行動を見て反射的に身体が回避行動をとり、他者に警告を上げる余裕があった。


 一つ、それなりに経験を積んでいるものの、龍ほどの強者と対するのは初めてであり、事前情報があっても即座に行動に移れず、目の前の脅威に身体が固まってしまった者。


「くそっ!」


 リーダーが動きを止めたのは一瞬のことだった。ーーーなんとか助けられないかーーーしかし、自分はこの即席チームの指揮者である。自分がやられてしまえば、生き残った者もまとまった行動がとれなくなり、潰滅するだろう。自分は最後まで生きてメンバーの生存可能性を上げねばならない。


 そしてリーダーとは逆に死地に飛び込む男が一人。リーダーとはずっとパーティーを組んできたタンク役の男だ。それだけにリーダーの考えはすぐにわかる。


 一人でも多く生還させればリーダーがうまくやってくれる。男は漢臭い笑みを浮かべて親指を立てると、身動き出来ない仲間たちの前に立ちはだかり、盾の底部を深々と地面に突き立て、ギリっと歯を噛み締めた。


 まるで夕焼けのように周囲が赤く染まる。龍の口の中は小さな太陽のように赤熱している。


 盾を握る力が強くなる。





 そして一つ、|動く気配すら見せない・・・・・・・・・・・


 軽装で、要所要所に革の防具をつけ、フードを被っていて姿は見えない。身長は低く子供ではないかとすら思われたが、フードの陰に怯えはない。


「【障壁(ウォール)》】」


 焦りも怯えもない、軽やかなアルトの声は大きくもないのに不思議とその場にいる者たちの耳に届いたのである。


 彼らを飲み込もうとしていた死の具現である緋色を闇が呑み込むと同時に轟音が響きわたり、一人を除き(・・・・・)誰もが目を瞑ったが、1秒2秒と経ち、なんともないと一人、二人と目を開けていく。


「……なっ、!?」


 半球状の壁がそびえ立っていた。


「これはまさか、“鉄壁“か!?」


 頭部が微かに震えた小さな人物へと視線が集まる。


「うおおおー!“鉄壁“だ」

「「“鉄壁“! “鉄壁“!!」」


 徐々に“鉄壁“コールが広がっていく。


「誰が“絶壁“だぁああ!」


 先ほどの柔らかな声と同一人物とは思えないほど低い声が“鉄壁“コールを掻き消した。


いや、叫びと一緒に地面から伸びた10cm四方の柱が“鉄壁“コールをあげた者(・・・・・・・・・・)の腹を過たず打ち上げたからだ。


「……ち、ちが、(てっ)ぺ……

(ガク)」


 反論を許されず、意識を喪失したのが6人。


「ふんっ」


 “鉄壁“と呼ばれた人物、少女は自らの胸部を眉間にシワを寄せて睨みつけていた。


「いつまでふざけてる!」


 リーダーが戻ってきて怒鳴る。空気はすっかり緩みきっていたが、まだ戦闘中なのだ。


「この“壁“の外はどうなっている!?」


 リーダーは少女へと問い詰める。


「龍自身爆煙で視界はふさがれてるんだと思う。ただ、とっておきだったんだろうね。止めを刺したつもりで飛び立つつもりかも。」


「なんだとっ!?魔法使い隊、詠唱待機! それで“壁“は消せるのか!?」


 リーダーは魔法使いに急ぎ指示を出し、再び少女へと問いただす。


「消すのはいつでも。ただ、熱がまだ残ってるから覚悟はしといたほうがいいよ。それから龍の方向はこっちね」


 少女は前方右斜め前を指指す。


「この状態でどうしてわかる?」


「自分の技で視界を塞いでどうするのさ」


 当然の質問にさもおかしそうに少女は答えたのだった。


「後7秒で“壁“は解除するよ」


「聞こえたな!? 5、4……1、0、放て!」


 瞬間で視界は再び拓け、完全に油断していた龍へと魔法が突き刺さる。


「GYAAAAA!」


 戦闘が開始してより初めて龍が悲鳴を上げる。ここをチャンスとばかりに一気呵成に攻め上がる戦士たち。


 しかし、強固な鱗に弾かれて隙を晒した剣士に暴れる龍の爪が迫る。


 ガキンっと音を立てて剣士の目前で地面から隆起した壁が防ぐ。


「私から40m、龍の前くらいまでなら全部防ぐよ」


 その言葉通り、ピンチになりかけた者たちは皆“壁“によって守られている。勢いがつきすぎていて“壁“に激突する者もいるが、龍に紙屑のように引きちぎられるよりはマシだろう。


「……全員、守りは気にしなくていい! 攻撃に集中しろ!」


 少女の“壁“頼りの突撃攻勢が始まったのだ。








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