夜間警備
初めましての方、これまで読んで下さっている方、どうも七海玲也と申します。
CROSS×OVERシリーズ、ネコ耳の2作目、実質3話目の物語になります。
2話目に当たるネコ耳1はネコ耳0の内容も含まれていることもあり、ナンバリングが多少ブレてしまいますが、今作は全く新たな物語として正規の続編になります。
順序としてはBridge 2の前日譚になる物語になります。
ですので、マグノリア王国を出て約1、2年経った後の物語であり、双剣や他の出来事を飛ばしております。
その飛ばしてある話はBridgeの3や他のナンバーで描いていくつもりですので、その辺りは会話や思考の中で読み取って頂けたらと思っております。
ネコ耳はあくまでも予言者なる集団の考える世界観と、個人の思う世界観の相違を中心にしておりますので、そこが絡まない物語はBridgeにて描いていきます。
その時まで是非ともお待ち頂けたらと思います。
長くなりましたが、それでは本編をお楽しみ下さい。
全く新たな物語の始まりです。
それでは後書きにてお会い致しましょう。
七海玲也でした。
「なんにも起きないにゃぁ」
月明かりの中、村の小さな外壁にもたれながら猫娘がぼやいている。
「何も起きないから良いんだろ。
毎晩のように襲われてたら、こっちの身が持たないさ」
そんなことは分かっているのだろうが、ついつい口に出てしまうのだろう。
オレ達がこの村の夜間警備について既に五日も経っているにも関わらず、一度も魔獣の襲撃がない。
「だって、わたし達が来る少し前から毎日のようにあったって話なのに、一度も姿形すら見てないにゃ」
「それは確かにそうなんだが。
かと言って、無下に出来る依頼でもないだろ?」
モルフスクの街に着いた矢先、負傷兵が続々と運び込まれていたのがそもそものきっかけでもあった。
「そうなんだけどにゃぁ~。
やっぱり今日も何もなさそうだにゃ」
皮肉なのか当て付けなのか、大きな溜め息と共に空を見上げ呟いている。
「だったら、そろそろ寝てもいいぞ。
今日は少し早いが、まぁいいだろ」
「そうさせてもらうにゃ」
体感的に結構早めな気がしているが、これだけ何もなければ大丈夫であろう。
いつものように寝袋を用意しているのを何気無しに見ていると、不意にこちらに顔を向けた。
「変なこと考えてない?
近づいたら噛みつくからにゃ!」
「変なことってなんだよ。
ったく。
何回目だよ、そのセリフ。
何もしないから寝てろよ」
今となっては夜営をする度の定例というか、儀式みたいな感じになっている。そして、最近では朝になるとルニがにやけ顔で何も無かったか聞いてくるのがお決まりだ。
確かに出会った頃よりは女性らしくなってはいるし、一般的にも可愛らしい部類だとは思うが、旅をしているパートナーであり守らなければならない存在でもある。それがある以上、何か起きるというのは考えられない。
それを抜きにしてもと考えながら、寝袋にくるまっているミィを見ると……
「何をやってんだ、オレは。
あんなことばっかり言ってるからだな」
視線を街へと続く森に戻し、改めて警戒するよう自分に言い聞かせる。
(なんだこの違和感……)
胸の内にモヤモヤとしたものが沸き上がる。何か気配があるといった訳ではないが、森を見ていると妙な感じを受ける。
街と村を繋ぐ街道の真ん中に森がある。中心からは外れそれほど深い森ではないが、北へはそれなりに伸びている。
(なのに、街への被害は少ない)
街にはそれなりの衛兵もいて、魔獣の一体や二体には屈しないだろう。それならば、流石に魔獣であっても守りの弱い村を襲い食い荒らす方を選ぶ。
この理屈は間違いではないと思うが、何か引っかかってならない。
「あ、あのぉ……」
村から出てきた足音に声をかけられ見上げると、そこには冴えない男が中腰でいた。
「な、なんでしょうか?
オレに何か?」
「あなたが街から派遣されたという、何でも屋さんですよね?」
「そうだが、あそこに寝てるのも一応仲間で、オレ一人でやってることじゃないんだ」
少し離れた位置に寝ているミィを指差し苦笑いで答えると、男は頭を掻き短い返事をした。
「それで、何か用でも?」
「少し気になることがありまして。
外の人間にしかあまり話せなくて、それで声をかけたんです」
なんだか勿体振った言い方をするが、何も起きていない今なら話を聞くくらいはいいだろう。
「依頼を遂行しているところなので、新たな依頼となると出来るか分からないが、話を聞くくらいなら」
「話を聞いて頂けるなら。
しかし、他言無用でお願い出来ますか?」
こうまで言われると、気にならないと言えば嘘になる。
「話したとしても仲間内だけに留めておくので、安心して話して下さい」
「そうですか、分かりました。
お話というのも、魔獣の件でして」
「魔獣の?
それはどういったことで?」
勿体振っていたのは今回のことだったからか。
「心当たりというか、疑念というか。
確実なことは一切ないのですが。」
「それでも話して下さい!
もしかすると、そこから魔獣を食い止める糸口が見つかるかも知れないので」
何もなく魔獣から村を守るだけでは解決は出来ない。僅かでも何かあるのならば、寄せ付けないことも出来るだろう。
「結果から話すと、この村の住人、まぁ自分の知人なのですが。
知人が姿を消してから、村が魔獣に襲われるようになったのです。
これが偶然なのか、なんなのか分からないのですが、彼の仕業なのではと思っているので調べて欲しいのです」
気になる話ではある。
全くの偶然とも取れるが、もしもということも大いに有り得るので、これは見過ごすわけにはいかない。
「調べる必要がありそうですね。
知人だと思う訳など色々とお話頂けますか?」
「えぇ、お願いします」
承諾すると隣に腰を降ろし、一つ息を吐くと思い返すように空を見上げた。