一日目、午後十二時四十分
講義が終わり、私は旅支度をするため一旦大学から徒歩五分の自宅へ戻る。二十分後、大学の目の前にある駅の改札前で未香さんと待ち合わせた。
「神戸、って、なにで行くんですか? 新幹線?」
「そう。新幹線」
はい、と未香さんに乗車券と特急券を渡される。この駅から、新神戸までの往復切符。特急券は行きも帰りも指定席で、出発、到着時間が印字されている。
「帰りギリギリじゃないですか」
「君にとってはギリギリかもね」
新幹線の到着時間から計算して、東京駅からこの駅につくのがおおよそ十六時二十分、私の金曜日最後の講義はその十分後の十六時半スタートだ。
「私にとって、とは?」
「これ、もともと僕と研究室の同期で行く予定だったんだよ。そう。元々は教授のお使いだったんだ。だけど朝になって、その連れが風邪引いて行けないとか言い出したもんだから、君を誘ったって訳」
ドッペルゲンガー云々の話はなんだったのだろうか。
「それも目的のひとつだよ。詳しくは新幹線にのったら説明するからさ、とりあえず先ずは快速乗るよ」
そう言って未香さんは改札を抜け、向こう側から私を手招きした。
「五限、間に合うんですかね……」
紙の切符を改札に通すのはずいぶん久しぶりだななどと、現実逃避めいたことを思ってしまった。