一日目、午前十時二十五分
四月某日木曜日、天気は晴れ。今日の講義は二限の教養科目のみ。午後の予定など決まっていないので、どうしたものかなどと思っていたら。
「ねえ、今日の午後から時間ある?」
ガタガタと椅子を引きながら、隣の席に未香さんが座ろうとしてきた。スケジュール帳とボールペンを引っ張り出して、一応の予定を確認する。
「講義も無いし、暇ですけど」
「それはよかった。ついでに明日の午後まで暇ならもっと嬉しいな」
金曜日。確か講義は……。
「五限はあるけど、それで大丈夫? まあ、明日は部会だから、どんなに空けてもそこまでですね」
週の頭に講義がみっちり入っていて、水曜日の午後を境にコマ数が激減する時間割り。バランスが悪いなどと未香さんには言われるが、未香さんとてあまり人のことを言えた義理ではない。
「……ていうか、今日から明日、って何するんですか」
未香さんには、「取材」あるいは「研究」などと称して各地に赴く趣味、もとい放浪癖がある。一緒に組むようになってから、その放浪癖に付き合わされるようになった。今のところギリギリ都内近郊でとどまっていたけれど、日程的に泊まりがはいるとなれば、そこそこの遠出を覚悟しなければ。
「ちょーっとドッペルゲンガー探しに神戸まで」
そこそこどころの遠出ではない地名に、私は持っていたボールペンを床に落としてしまった。