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小説

会議

作者: ガンベン

「なんだ、この資料は!」

 取締役が浩司に向かって資料を放り投げた。浩司は反射的に身を反らした。資料がヒラヒラと宙に舞いながら地面に落ちた。浩司は握りしめた拳を開いて慌ててその資料を拾い上げて、頭を下げて言った。

「申し訳ありません。」

取締役が怒った顔で浩司を睨んでいたが、浩司は続けて質問をした。

「しかし、どこが悪いのか教えて頂けないでしょうか?」

「誰に口を聞いているんだ!」

取締役の怒気を含んだ大きな声がフロアに響いた。同じフロアで業務を行っている同僚たちの視線がこちらに向いているのに気付き、浩司は恥ずかしさと悔しさがこみ上げてくるのを感じて、頭を下げながら手に持っている書類に力を込めた。

「取締役。取り込み中に申し訳ありませんが、もうすぐ常務会が始まりますので、よろしくお願いします。」

窪下が一礼をして浩司の傍から取締役に話しかけた。取締役は少し冷静になり、返事をした。

「わかった。それでは今回はこのままの資料でいいから直に準備して会議室に来るように。私は先に入っているから。宜しく頼むよ。」

取締役は、後ろにかかっているジャケットを手に取ると、席を後にした。浩司はその後ろ姿に礼をし、拳をぎゅっと握りしめながら自分の席に戻った。


浩司は準備した書類を持って、会議室に向かった。まだ全員は揃っていない様子で各席に書類を置き終わると、席に座り資料を確認した。少し経つと、社長や他の常務や監査役たちがドアを開けて入ってくるのがわかった。そして最後に会長がドアを開けて一礼をし、席に座ると、常務の方を見て頷いた。その合図で常務は立ち上がり、司会進行を始めた。

「それでは今月度の常務連絡会を始めます。最初に本部企画の広川係長から議題説明があります。それでは広川係長お願いします。」

その案内が終ると浩司は、予め用意していた書類を見ながら今回の議題説明の内容を読み上げた。途中詰まったりしたが、なんとか読み上げた。

「この点につき、何か審議する点はありますでしょうか?」

と常務が皆に呼びかけた。

様々な意見が飛び交い、中には否定的な発言や質問が飛び交い、浩司は完全に答えることができなかった。会議で少し失笑が起こった。そして取締役が発言を始めた。浩司はやや諦めたようにそちらを向いて第一声を待った。

「私も皆様の意見と同様で、今のままで進めると問題だと思います」

 浩司は顔を背け、下を向いた。

「しかし、若い広川係長が進めているプロジェクトでもありますので、今後は私がアドバイスをしながら、この案件につき進行だけは承認お願いいたします。」

 そういうと取締役は深々と頭を下げて言った。浩司はハッとして顔を上げて取締役の姿を見た。

「まあ、君が責任を持つというなら、試にやればいいさ」

 会長がそう言うと、取締役がこちらを見た。浩司は立ち上がり、頭を下げた。

「このプロジェクトを進めるかどうかは、また来週ある取締役会で決定するからその時までには今回指摘があったところをクリアにするように。」

 会長が追加で発言をすると浩司は元気よく答えた。

「承知いたしました。有難うございました」

「それでは、この件については終了させて頂きます。それでは、次の議題を進めさせて頂きます。」

常務が話を進めると、取締役は浩司の方を見て退席するように促した。

浩司は軽く頷くと一礼してゆっくり席を立ち、会議室を後にした。ふと手を見ると汗ばんでいたが気持ちが軽くなったのを感じ、自分のフロアに戻っていった。



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