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剣と魔法と勇者の印  作者: 夜鷹
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新米冒険者フィオンⅡ

 フィオンの、冒険者としての初仕事――ゴブリン討伐は無事達成することができた。

 駆け出し冒険者の初仕事、それも討伐依頼の成功率は非常に低く、本来なら喜ぶべきことであったが、フィオンはどうにもそういう気分になれなかった。

 最後のゴブリンにとどめを刺した後、腰が抜けたようにうずくまり、しばらく動くことは出来なかった。

 ガタ。とフィオンのうずくまる木こり小屋の廃墟に、物音が響いた。

 まだゴブリンが残っていたのだろうか?

 うまく言うことの利かない体をどうにか立たせ、いつの間にか手放していたバスタードソードを拾い上げ、物音がした方にゆっくりと歩み寄る。

 子供が居た。ゴブリンではなく、人間の子供。歳はおそらく10歳くらいの女の子だった。

 衣服はぼろぼろで、露出した肌には生々しい切り傷と、痣が残っていた。おそらく、近くの村――フィオンがゴブリン討伐依頼を受けた村から、さらわれた子供だろう。

 ゴブリンは基本的に臆病であるが、その内には強い暴力性を秘めていると言われる。そのため、体格で劣る人間などを襲うことは少なく、出会った場合即座に逃げ出すが、自分より小さい動物や、弱い子供などには容赦なく襲い掛かる。その上、本来持つ暴力性から必要以上に嬲り、殺すと言われる。さらにゴブリンは悪食で何でも食べるため、さらわれた人間の子供さえ平気で食すと言われる。

 少女はフィオンの姿を見ると、声にならない悲鳴を上げ、暴れるようにしてあとずさる。けれど、足の腱を切られているのか、うまく足に力が入っておらず暴れるだけにとどまる。

 涙を浮かべ、尋常じゃない怯えようは、それだけゴブリンたちに痛めつけられたためだろう。

 けれど、彼女は助かった。

 ゴブリン達を殺めたことに強い罪の意識を感じたが、自分は正しいことをやったのだと、フィオンは少しだけ心が少しだけ軽くなった。

 いつの間にか目に浮かんでいた涙を拭い、フィオンは身を屈め、敵意がないことを示すように武器を置き、そっと少女に手を伸ばした。

 少女はフィオン伸ばした手を拒むように怯えあとずさろうとする。けれど、やはりうまく動くことは出来ずに終わる。少女は最後の抵抗とばかりにフィオンの手に噛みついた。

 フィオンの手はガントレッドで守られているが、手の甲は守れても、手の平は守れず、手の平に少女に歯が食い込む。

 痛みに一瞬だけ表情が歪むが、少女を安心させようと努めて笑顔を浮かべる。

「大丈夫。怯えなくていい。俺は、君の敵じゃない」

 できる限り優しく、安心させるように、そう言い聞かせる。

 少女はしばらく抵抗しようと、噛みついていたが、しばらくしても攻撃されないことに気付き、フィオンが自分に危害を加えるものでないことを悟る。すると、噛みついていた口を離し、表情を怯えから驚くような、喜ぶような顔に変え、先ほどとは違う涙を流し、泣き出した。

 フィオンはそんな少女に、先ほど差し出した手とは反対の手で、彼女を安心させるように彼女の頭を撫でた。


 ゴブリンが住み着いていた木こり小屋には、ゴブリン4人と攫われた少女――アリサ、盗み出された家畜の羊と穀物、ゴブリン達が使っていたであろう、どこから調達したかわからない家具があるだけだった。羊は残念ながら殺され、すでに半分ほど食われた後だった。穀物類は食い荒らされていたが、まだ十分な量が残っていた。

 フィオンはアリサを落ち着かせた後、持ち帰れそうな穀物を麻袋に詰め、戦闘時に投棄した武器を回収する。ゴブリン達の持ち物から金目のものがないか探したが、それらしいものはなかった。

 そうして、仕事の後処理を終え、歩くことのできないアリサを抱え、帰る事にした。

 アリサは泣き疲れていたのか、安心したのか、フィオンが抱きかかえ木こり小屋を後にすると、すぐに静かな寝息をたて眠ってしまった。

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