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近藤麻子 就職遭難

作者: 灰猫

3年の卒業を控えた底冷えのする2月下旬。

保健室に珍客がやってきた。


「あれーカウンセラーはー?」

「ちゃこちゃんお茶欲しい」

一卵性双生児の夏生と秋生だ。


「ぺぺっ何しに来たのよあんた達何も無いのにくるんじゃないわよ!!」

桜子とは犬猿の仲だ。


「何しに来たはそっちだろう?こっちはカウンセラーに話があるんだ。

どうせお前、時間つぶしのぼっちだろう?」


「失礼な事言わないでよ!待ち合わせしているのよ!」


ガラガラ


保健室に戻ってきた誠史郎は珍客の騒ぎを見るなり頭を抱えた。


「君たちねえ相変わらず収集つかないねえ。ここは教室ではないのだから。

それより、今回は事前予約のあった夏生の勝ち。工藤さんは部屋の外で待っていなさい」


「ふふふ」

勝ち誇ったように双子が笑う。


「なにそれー」


「その前にここはケンカ部屋でもない」

ブーブーと桜子は保健室を後にする。


夏生と秋生は相変わらずうりふたつだ。

2人を相談室のソファに招き、

「で、話は何かな夏生君」


にやりと夏生は答える。



「カウンセラーってさー、オレ達を間違えないよね」

「個を取り違えてしまったらアイデンティイティが確立しないでしょ?」

「まあいいや。おもしろいやあんた」

「で話ってなんですか?」


「音楽室のタンゴ」

夏生が口にする。

「なんか曲が流れている間に何かが起こっているらしいぜ」

秋生があとに続く。


「なにそれ?そんな一昔前の都市伝説。そんなの校内巡回で捕まっていますよ」

「だから曲がすごく短けーの。でも音楽室のオブジェにキズが入っているらしいよ」

「授業前のイタズラかね?」

「だろ?ちょっとおもしろくね?」

ワクワクとした顔で秋生がのり出す。

『顔は同じだけど性格はずいぶん違うなあ』

誠史郎はそう感じていた。


ずるぺったん。ずるぺったん・・・ふむ。


『授業中は出ていないようですね』


『てゆーかなんでタンゴ??もっと・・・』


「うそっ!!ビンゴ?」

どこからか曲が聞こえる。


慌てて音楽準備室に行くそこには誰もいなかった。


「授業のサボりもダブルかー。上等だねえ」


よく見ると準備室にあるバッハ・シューベルト・モーツアルトのオブジェの

シューベルトの首筋にキズがつけられていた。


『どれもタンゴと関係ないじゃん』

誠史郎はキズを見つめながらオブジェに問いかける。


「子供達は好きですからねえ~。そういう都市伝説みたいなもの」

怪訝な顔で北斗がコーヒーを出す。


「しかも物証がありましたからねー」

誠史郎もつぶやく。



コーヒーをすすりながら、

『張り込みかあ・・・1人じゃ無理だな・・・』



「はあ?張り込みしろ?ふざけんじゃねえよ」

秋生がキレる。

「パクればいいだろそんなヤツ」



「今回はパクるのだけが目的じゃないんだ。だからあの曲が聞こえたら

どの辺かチェックしてほしい訳」



「なんだよ、すげーだりー。俺達に何のメリットもねえじゃん」

「なんか、言い損。やめよーぜ夏生!」

秋生はすごくふてくされていた。


「ふふっいいじゃん秋生音探しゲームだよ。秋生、耳いいからね。

でも犯人を僕らに見せる気はないんでしょう?」

『ねえ?カウンセラー?』というように夏生が誠史郎の目を覗き込む。


「ばれた?」

クスリと笑う誠史郎。


・・・・・・・・



「はい。データー。音楽室以外で一定の場所でリズムを短く繰り返しながら流れる」

「わるい夏生。秋生。今回は助かった」

「まあ僕らが持ってきた案件だしね。今回は貸し1つかな」

くすりと夏生が微笑む。


・・・・・・


音楽室に女子生徒がカッターを持って入ってきた。右から

「わたし養護教諭の北斗です。声を出さないで」

左から「僕はスクールカウンセラーの桜井。

声を出さずにこのまま3人で保健室行きましょう」

大人に挟まれて彼女は震えていた。

保健室に入ってきたときには完全に涙目になっていた。



「ああああ!!ごめんね泣かすつもりは全然なかったんだよ。

ちょっと声だされたら困るかなーって感じで・・・」


「本当に怖い思いをさせてしまってごめんなさいね」

相談室のソファに座らせ北斗がお茶を入れる。

「あのなんであたしがここに?」

女生徒が切り出す。



「ん?音楽室のタンゴさん?」



笑いながら誠史郎が言う。

ガタッと近藤が立ち上がる。


「あのねーあの部屋に近藤さんがいるかチェックしてたのシューベルトと

タンゴに関係があるか僕にはわからないけど

何かキミには関係があるんじゃないかなーって」


ばふんとソファに座り込む麻子。


「停学ですか・・・・」

「ん」

「停学ですか・・・?」

「ん、それは今この時期だから学校が配慮するけど。3年だっけ」


「進路決まっているのかな?」


「あたし勉強できるんです。D大付属の高校受けられるんです」

「ほう・・・それはすごい・・・」


「でもお父さんの会社倒産しちゃったんです。

両親すっごい考えてくれたけど

今のアパートで暮らすので限界で、ランク落としたんです。

そして高校卒業したら地元のスーパーで働くんです。

高校は卒業まではぎりぎりお金足りるから

公立には何とか行けるみたいなんですけど・・・何ですかこれって?」


「1日で生活が変わっちゃうってなんなんですか?

お父さんもお母さんも悪くないのに・・・

何で

何で

・・・何で」


そのまま麻子はソファで泣き崩れてしまった。

麻子は泣き疲れてしまい両親に迎えに来てもらうことになった。

誠史郎は両親にささやくように語りかけた。


「麻子さんはご両親の関係はとてもよく思われてます。

その空気をいつも出していてください。

そのなかから、麻子さんが自分で新しくやりたいことが出てくるかもしれません。

今できなかったらもう終わり。とは思わせないでください。


温かい家庭が麻子さんに支えです。よろしくおねがいします。

大学に進むのも色々な手段があります。夢を、可能性を伸ばしてあげてください」


「はい、わかりました。がんばります。お手数をおかけしました」

両親は深々と頭を下げ支えるように麻子に寄り添って帰って行った。



「音楽室のオブジェを傷付けていくのが彼女の心の叫びだったんですね」

「僕たちの体はいくつあってもたりないですねえ。ちゃこちゃん」

「はい。がんばります」


「で、結局なぜタンゴ?」

誠史郎は首をかしげる。


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