俺の可愛い幼馴染のメンタル強度は絹ごし豆腐以下
「私のメンタル強度は絹ごし豆腐以下」の初視点です。
俺、小鳥遊初には幼馴染がいる。
名前は片桐伊月。泣き虫で、俺に全幅の信頼を置くちょっとお馬鹿な奴だ。とても可愛い。俺の後ろをちょこちょこ歩いたり、知らない人がいると俺の背中に隠れて不安そうに俺を見上げたり。一番可愛かったのは、保育園の頃に「ういちゃんのおよめしゃんになゆ!」って言った時だな!
伊月が中学の頃、告白された時は気が気じゃなかった。幸い伊月は断ったがな!全く、うちの可愛い伊月をそう簡単にやってたまるか!
とりあえず、告白してきた奴とはちょっと話し合っておいた。
高校に入ってからもそれは変わらず、伊月に構っていると、保護者扱いされるようになった。保護者っちゃ保護者だが、何だろうな、モヤモヤする。
俺たちが入学した私立彩原学園には、ファンクラブを持つ生徒がいる。生徒会の連中がそれだな。
ある日、俺は女子生徒に呼び出された。
「小鳥遊君、あなたのファンクラブを作らせてください!」
「遠慮する」
即答するに決まってんだろ。
そんなもんができて、伊月が距離を置いたらどうしてくれる。我慢しなきゃと思って我慢するけど我慢できなくてどうしていいか分からなくて泣くに決まってる。アイツの絹ごし豆腐以下のメンタル舐めんなよ。
泣いてる伊月も可愛いけどな!
「じゃ、俺伊月迎えに行かなきゃ行けないから」
「そう!それです!」
びしっと指を突きつけられる。
「私たちが見たいのは、過保護な小鳥遊君とちょっとお馬鹿な片桐さんのじゃれ合いなんです!
むしろ一緒にいてください!」
「・・・伊月は馬鹿じゃない」
「バ可愛いんですよね!」
コイツ、なかなか見る目があるらしい。高校だと、クラスが離れて伊月といられる時間が減っている。幸い、一番危険な体育は合同授業だから安心していたが、それでも心配だ。
「俺のファンクラブじゃないならいいぞ」
「?・・・!小鳥遊様と片桐さんを見守る会とします!」
「それでいい」
こうして、俺のファンクラブ、もとい俺と伊月を見守る会が発足した。
早々に伊月の耳に入って距離を取られたがな!まぁ、すぐに代表が説明してくれて、元通りになった。
会の連中とも仲良くなったらしく、楽しそうに話ながら貰ったお菓子を頬張っている伊月はすこぶる可愛い。食べかすは綺麗に拭ってやる。
◆◇◆◇◆
高校三年生の中途半端な時期に転入してきた転入生のお陰で、学園が荒れている。何か俺に近づこうとしてるっぽいが、こっちくんな。俺は伊月を世話するので忙しい!
で、その転入生、越前VS生徒会ファンクラブが終わって少しして、こんな噂が流れ始めた。
片桐伊月が、越前美亜をいじめている。
と。
それを聞いた瞬間、ブチ切れた俺をクラスメートは必死に止めた。
「落ち着け、小鳥遊!」
「離せこんなアホな噂流した奴探し出して畳む!」
「お前ならできそうで怖い!」
「くそ、誰か片桐呼んでこい!俺らじゃ止められない!」
「伊月なら風邪で休みだ。今までからして一週間は休む」
「ホントお前よく覚えてんな!」
「そうだ、帰りにリンゴを買っていこう」
リンゴうさぎはダメだ。前に作ったら可愛すぎて食べられないと言ったからな。
しかし、この噂、どうしてくれようか。会を動かして調べるか・・・。
「あぁ、そうだ。このこと、伊月には言うなよ。アイツが聞いたら、一週間追加で寝込む」
「言ったら畳むんだろ?」
「いや、折る」
「折る!?」
さて、伊月の風邪が治るまでに犯人を探し出すか。
まぁ、犯人の目星はついてるんだが。
◆◇◆◇◆
犯人を特定できた。案の定、越前美亜の自作自演。ついでに生徒会役員による生徒会室や予算の私物化が判明した。こちらの証拠は教師にも渡した。何かリコール騒ぎになるらしい。行いが行いだしな。折角なので署名集めを手伝った。交換条件として越前の退学を求めた。
最初は渋っていたが、証拠をマスコミに流すと言ったら飲んでくれた。
大体、アンタらが動かないからここまで悪化したっつーのもあるだろ。
で、一週間後。
伊月は親友の田宮から事の次第を聞いた。田宮なら上手い具合に伝えてくれるだろう。口は悪いが伊月を可愛がっているしな。
やっぱり俺のところに来て泣いたけどな。泣き止ませて、クッキーをあげた。もくもく頬張る姿はやっぱり可愛い。
その三日後の昼休み。
伊月と昼ご飯を食べたかったのに、署名を整理する羽目になった俺のところに、クラスメートが駆け込んできた。
「小鳥遊!片桐さんが━━━━」
「伊月がどうした!?転んで怪我したのか?風邪がぶり返したか?寂しくて泣いてるのか?」
胸ぐらを掴み、がくがくと揺する。
「食堂、で、か、会長たちに囲まれて・・・ちょ、揺らすな、酔う・・・」
クラスメートから手を離し、食堂へ急ぐ。クラスメートがぐえっと床に落ちたが知らん!
「 伊月いいいいいい!!!!!!」
食堂に駆け込むと、伊月が生徒会に囲まれていた。恐怖のあまり、顔面蒼白で表情が固まってる。
俺を見ると、安心したのか泣きながら抱きついてきた。
頭を撫でながら、ごめんな、と謝る。教師の手伝いなんざやらなきゃよかった。
「わた、わだし、なにもじてない、のに、にらまれで、こわぐて」
伊月、鼻水出てる。そんな伊月も可愛い!鼻水つけられても俺は気にしないぞ。
勿論、何もしてないことも分かってる。
そう言った瞬間、越前が騒ぎ出した。怯えてしまった伊月を背中に庇い、アホどもに向き直る。
「あ゛ぁ?うちの可愛い伊月がんな真似するわけねぇだろ、頭沸いてんのかテメェ」
「貴様、美亜に何てことを―――」
「黙ってろ色ボケ会長。大体な、伊月は怖がりなんだ。保育園の昼寝の時間、怖い夢を見たって泣いて俺の布団に入ってきたり、小学校の頃、学習発表会でシンデレラの継姉役をやった時も、終わった後で罪悪感に押しつぶされ号泣し、中学の修学旅行で道に迷って俺を泣きながら探し、あの馬鹿げた噂が流れたのを知った日には俺のところに来てずっと泣いてたんだぞ。伊達に絹ごし豆腐以下のメンタルじゃないんだぞ、伊月は」
伊月が縮こまっている。恥ずかしいのだろう。だが安心しろ。全部可愛かった。
「そんな伊月を泣かせやがって、ふざけんじゃねぇよテメェら」
思わず低くなってしまった声に反応したのか、伊月がきゅっと腕を握った。危ない危ない、我を忘れかけて伊月を怖がらせるところだった。
伊月に大丈夫、と笑いかけ、アホどもに告げる。
「会長、アンタら生徒会はリコールだ。既に全校生徒の四文の三以上の署名と後任の候補は用意できてる。呆れたよ、アンタら以外の全生徒が署名した。
後、越前。いじめは自作自演だったっつー証拠も揃えてるぜ。噂流したのもテメェだな」
アホどもが騒ぎ出したせいで、また伊月が怯えちまった。頭を撫でてやる。可愛い。
「何で、何で失敗したのよ…!セリフは全部完璧だったのに…!」
越前が何か言ってやがる。
セリフ?
「おかしいわ、小鳥遊初は金髪だったはず。しかも何で悪役の片桐伊月を庇ってんの?一匹狼のミステリアスな不良っていうのが彼のキャラでしょ?」
悪役?キャラ?
あー、でも、金髪は・・・。
「初ちゃんが金髪じゃないのって、私のせいだよね…」
「あれは、母さんが勝手に…!俺がしたくてしたわけじゃ…!」
俺は一度髪を染めたことがある。高校入学前の休みの時に、母さんに無理やり染められたのだ。で、伊月に見せたら長い沈黙の後、大泣きされた。あの時は死ぬほどショックだった。勿論即刻黒染めした。
僅か一日の出来事である。
俺と伊月、後それぞれの家族くらいしか知らないのに何で知ってんだ?
「アンタがストーリーを歪めたのね!この、バグが!アンタがシナリオ通りにやらないからこんなことになったのよ!!悪役は悪役らしく私の踏み台になりなさいよ!!!
初ルートがアンタのせいでクリアできなかったじゃない!!!!!」
ストーリー?バグ?シナリオ?
何言ってんだ?ゲームの話でもしてんのか?
だが、伊月が危険なことだけは分かる。
「死ね!バグ女!!!」
伊月に掴みかかる越前を抑え込む。
「ふざけんな!誰にも愛されなくて寂しいとか言ってたくせに、私を拒絶しやがって!」
いや、言ってねーよ。
愛されてない?両親とも良好な関係だし、伊月から愛されてるけど。・・・家族愛でな!
いい加減殴ろうか、と思った時、伊月が背中から離れた。
パンッ。
乾いた音が響く。
伊月、が・・・人を、叩いた?
そんなことをすれば罪悪感やらで不登校になりかねないメンタルのはずなのに、伊月は凜と越前を見据える。
「初ちゃんは、誰にも愛されてないわけないです。
おじさまやおばさま、学園の人に愛されてます。
第一、私が初ちゃんを愛してます。だから、勝手なこと言わないでください」
伊月は叩いちゃってごめんなさい、と頭を下げた。越前は何も言わずに座り込み、やっとやってきたらしい教師たちが、アホどもを連れていく。
俺はそれどころじゃなかった。
あいしてる。愛してる!?
伊月が!?俺を!?
いや、勘違いするな。家族っつー枠内だ。きっとそうだ。何てったって伊月の恋愛に関する情緒は未発達だからな。
「う、初ちゃん?」
名前を呼ばれ、ぎこちない動きで伊月を見る。上目遣い可愛い!
じゃなくて・・・。
「あ、い、伊月、その、さっきの、って…」
ガチガチになって、さっきの発言について聞く。
「あ、あのね、初ちゃんのこと言われて、その、初ちゃんのこと知らないのに、決めつけないでって思ったっていうか、イラッてきたっていうか…」
「じゃなくて…、あの、あ、愛してる、って…」
「私、初ちゃんのこと大好きだよ?」
初ちゃんのこと大好き。
どういう意味で?
「本当か?家族的な意味でなく?その、恋愛的な意味で?」
「? そうだよ?
初ちゃん、言ったじゃない。「伊月は俺のお嫁さんになるんだ」って」
「それ、小一とかの時の話だろ!?」
「違ったの?」
「…違くない」
小学校の時、「はなよめさんきれい。いつきも、どれすきたい」って言った伊月に言った言葉。
その時はしょんぼりしている伊月を慰めたくて言った。勿論本気で嫁にするつもりだった。
それは、今も━━━━
「その、伊月。…えっと、あの…す、好きだ」
「うん。私も好き」
「だから、俺と、付き合ってください」
「喜んで!」
満面の笑みで抱きついてきた伊月を抱き締め返す。俺より小さい体を柔らかくて。
これは、その、色々ヤバいかもしれん・・・。
◆◇◆◇◆
あの出来事の後、生徒会はリコールされた。退学にはならなかったものの、全校生徒が白い目で見てくる中、いつまでもつのやら。転校するって手もあるが、職務放棄や伊月への糾弾とか余すところなく内申書に載せるから、同じような状況になるだろうな。ん?あぁ、教師たちをおど・・・説得してそういう措置を取ってもらったんだ。
越前の方は、ヒロインがどうとか言い続けて、一切反省しなかった。こっちは、精神異常と判断され病院に入院している。監視もバッチリだし、伊月に害を及ぼすこともないだろう。
伊月には内緒だ。これはまだ知らなくて良いことだ。
俺と伊月の関係は、あまり変わることはなかった。
絹ごし豆腐以下から木綿豆腐並みのメンタル強度を手に入れた伊月は、前より泣かなくなった。
・・・ちょっと寂しい。
伊月の小さくて柔らかい手を握る。
甘えてほしいけど、生殺しは辛い、
なぁ、伊月。どうしたらいいかな?
【END】
読んでくださり、ありがとうございました!