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両手に花

 エデン国の王女のガーデンは完璧だった。

薔薇の匂いが柔らかい木漏れ日に

交じりこの世の楽園といえなくもないが、

どれだけ朗らかに会話が続こうと、話は社交を超えない。

貴人には当然のことが、社交の中に交易や政治を混ぜるのが外交であった。

 王女が外交の口火を切った。

「今年の柑橘類の収穫はいかがです?ジェイド王子」

王子はきたきたきたと思った。

「そうですね 平年より良かったと聞いておりますが」

さっそく王女の食指が動いた。

「まあそれでしたら ぜひ我が国に多く輸入させていただきたいですわ

王子様の果物はわが国ではとても人気ですの私も大好きですわ」

王子は素朴な笑顔を作った。

「ありがとうございます 果物農家が加工品にも力を

いれておりますのでジャムやジュースなどもおすすめです」

王女は無心の笑顔を作った。

(原材料を安く回せや)無言の圧力である。

王子は素朴な笑顔でお茶御飲み干した。

「このお茶は大変おいしいですね」

話を変えることにした。

この言葉には王女も本心から微笑んだ。

「さすがは王子様ですわ 侍女がこの日のために

茶葉と入れ方を厳選したのですわ」

ヒットが打てたと思った王子は安心して言葉を続けた。

「では侍女の方にお礼をお伝えいただけますか?」

ふふっと王女は目を細め、

「ちょうど また入れてきたようです

ご自分でお礼を言われるのはいかがですか」

その言葉に王子は驚いた。今まで物音も気配もなかったのに、

突然侍女がポットを持って傍に現れた。

様に感じた。

 侍女の所作は洗練されていて、従者を別の部屋で待たせて良かったなと

王子に思わせた。

お礼を言うために彼女の顔を見上げたのだが、

すぐに目をそらしてしまった。

 あの子だ。しかも前に見かけたよりも、綺麗になっている。

 静かにカップにお茶はそそがれた。お茶の香りを楽しむよな所作でごまかした。

「お茶をとてもおいしく入れていただき

ありがとう」

 やっとそれだけ言えたが、

侍女は会釈して去っていった。

王子はもっと気の利いた言葉を言えばよかったな、と後悔したが、

気の利いた言葉って何だよっとすぐに心の中で突っ込んだ。

 そして王女が、ふざけんなよてめーという目線で、

こちらを見ていることに気が付き、

「この お庭の薔薇は大変美しいですね」

と話をそらしたが、

「あら 王子は薔薇を送りたいお相手が

現在進行形でいらっしゃるのではないですか」

と返されて失点した。

 女性の目の前で別の女性に見惚れるのは

紳士あるまじき失態である。

(違うそうじゃないし、そこじゃない。)

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