一人前になる力
登場人物 ロップソン=ロプ(台詞表記) ジャド=ジャド(台詞表記) ニイナ=ニナ(台詞表記) ミリアナ=ミア(台詞表記)
ジャド「後は、待っているだけでいいのか?」
ロプ 「ああ、時間で魔道具の中に魔力が溜まるから、魔石が作れるようになったら作って行くよ」
ジャド「今は二つなんだな。ってことは時間の経過で、どんどん魔力が溜まる訳か。どれくらい魔法回数が増えるかな?」
ロプ 「魔石なら、一日二回なのは、知っているよな?」
ジャド「ああ、そっちは知っている」
ロプ 「火の矢だと、一日に十三回だったかな。段々回数が増えて来ているから、今じゃなくて少し前の話だな」
ジャド「なるほど。ということは、それだけ魔石の作製はその魔力を消費するってことだな」
ロプ 「まあ、そういうことになる。多分僕はこの魔法を使う回数も、一般の魔法使いより少ないんだと思うよ」
ジャド「だから魔道具を作って、それを補おうってことだろう?」
ロプ 「そうだ。せめて人並みにはなりたいものだな」
ジャド「まあ人並みになって、魔道具が作れなくなるのなら、どっちがいいのかよくわからないがな」
ロプ 「そうだな、魔道具で全て補えるって前提なら、魔道具を作れるだけ有利なんだろうな」
ジャド「そうかもしれないな」
ロプ 「お! 魔石が作れそうだ」
僕は一旦会話をやめて、魔法の力を収集する魔石を作製することにした。できた魔石を早速腕輪に組み込んで他の魔石とも連結させて、安定させる。
ロプ 「よし、魔力の収集が一個分増えたな」
ジャド「いい感じじゃないか」
ロプ 「そうだな、次の魔石を作るのが、どれくらいの時間かかるのかで、検証の始まりかな?」
ジャド「できたら、四つ目を組み込むのだろう?」
ロプ 「組み込むよ、ただかかった時間を魔石の数で割れば、一個辺りの時間は計算できるからな。まあ、おおよその時間だけれどな。後は、魔力が溢れている場所とかで魔力を溜めるのと、薄いところで時間差ができるだろうから、あまり検証に意味が無いかもしれない」
ジャド「まあ、目安くらいだな」
ロプ 「そうだな」
また僕達は、ボーっとした時間を過ごした。たまには何もせず、こういう森林浴のような時間もいいものだなと思いながら、時間を過ごして大体二時間くらい。
ロプ 「次の魔石が作れるようになったよ」
ジャド「おー、これでもっと早く作れるようになるんだな?」
ロプ 「魔石一個分早く作れるはずだよ」
ジャド「待ち時間はつまらないが、何か嬉しいものだな~」
ロプ 「だな、でも今までちょっと忙しかったから、たまにはこういうのもいいって思ったよ」
ジャド「それは俺も思ったな」
さて、魔石の数は四つになったから、次はどれくらいで作れるのかな~
時間を計る物がないから、正確な時間は分からない。それでも、大体の感覚で、前よりも三十分くらいは早かったのでは? って感じと、大体一時間ちょっとの時間で、次の魔石が作れるようになったと思う。
ジャド「これで五つ目か。何個その腕輪に付けるつもりだ?」
ロプ 「予定では十個かな。上限の方が、分からないから、それくらい無いと、安心できなかったからね」
ジャド「ふむまあ、とりあえず予定通りやってみようか?」
ロプ 「ああ、待たせてわるいな」
ジャド「いやいい。それでお前が強化されるなら、パーティーとしては大歓迎だからな。それくらいは問題ない」
ロプ 「そう言ってもらえると、助かる」
そして次の魔石が作れるようになるまでに、十五分くらい早くなった感じかな? 待ち時間は一時間辺り。
ロプ 「大体の予測ができた。魔石を作る為には、魔石が一個だけだった場合は五時間くらいかかる計算になるな」
ジャド「おー、さすが生産者だな、ほんとに時間を割り出しやがったよ」
ロプ 「感覚的なものだから、正確性はないよ。後ここの魔力の濃度とかも、一定かどうかわからないからね」
ジャド「それでも、一応の目安になるから、やりやすいだろう?」
ロプ 「そうだな。今六個目だから、後四つ、もうしばらくは待ってくれ」
ジャド「うーん、次で引き上げないか? さすがにそれ以上は真っ暗になると思う」
ロプ 「あ、もうそんな時間か! すまん夢中になり過ぎたな」
ジャド「いやいいよ、後一個とりあえずそれだけ作ってしまおうぜ」
ロプ 「ああ」
次の魔石が一時間かからずに作製できて、僕はそれを組み込んでから、町へと戻ることにした。
ロプ 「これで、家でどれくらいの時間がかかるかで、どこででも機能するかとか分かりそうだな」
ジャド「ほう、そういう検証の仕方だったのか」
ロプ 「まあ、いろいろと試さないといけないからな」
ジャド「確かにな」
ロプ 「今日はせっかくの休みを潰してわるかったな」
ジャド「いや、のんびりとはできたから問題はないって。遠慮せずにまた頼れよ」
ロプ 「そうだな、また頼むよ」
僕らは、それぞれの家に戻ったのだった。
次の魔石ができたのは、移動とかなにやらの時間もあって少しずれたかもしれないが、三十分ちょっとだった気がする。
結局のところ途中で疲れて寝てしまった為に、腕輪を完成させたのは、起きてからだった。十個の魔石を搭載したそれは、これからの僕には無くてはならない魔道具になるだろう。
ひょっとしたら、これがあれば人並み以上の魔法使いになれるかもしれないな。まあ実力じゃないから、威張る気にはならないけれどね。
寝ている間にどれだけの魔法の力を溜め込んでいるのか不明であるが、今日からまた冒険に出かける予定なので、検証の為に魔石を作るとかはできない。機会があればその時に試してみることにして、早速ギルドに向うことにした。
ロプ 「また遅れたみたいで、申し訳ないな。二人は疲れとか溜まっていないか?」
ミア 「私は平気です」
ニナ 「平気だよ」
思わずこれが若さか! って言いたくなったのだけれど、僕もそれほど年はとっていないな。普通に個人差か?
ジャド「まあ依頼は選んであるから、サインしろ」
ロプ 「あいよ」
またいつものパターンで、依頼の場所へと向った。
今回は、ちょっと遠出みたいだな。マギーに乗っても二時間くらいかかって、目的地に到着した。
ロプ 「もう少し椅子を柔らかくしたら、疲れなくなるかな?」
僕は体をほぐしながらそう呟く。
ニナ 「あ、それなら座るところにクッション置きましょうよ」
ロプ 「じゃあ、今度自分のお気に入りのでも、持って来いよ」
ニナ 「はーい」
そんな会話をしていると、ジャドが言って来る。
ジャド「それじゃあそろそろ気合を入れて依頼の方に集中しようか。今回の討伐対象は、ちょっと大物にしてみた。相手はキマイラで、近くの迷宮から出て来たやつらしい」
ロプ 「ということは、逃がした冒険者でもいたのか?」
ジャド「まあお察しの通りそういう事情なので、さくっと倒してしまいたい。今までと違って、多少なりとも知恵があるので、油断しないようにな」
ニナ 「わかりました」
ミア 「わかりました」
ロプ 「了解した」
それぞれに返事をして、森の中へと入って行く。
僕達は慎重に森の中を進んでいて森の中心近くまで来た頃、ジャドが止まれと指示を出して来た。
ジャド「どうやら、気付かれたみたいだ。全員ミリアナを中心に円陣を組め。周囲に警戒を怠るなよ」
僕達は隊列を変更して、周りの警戒をする。僕には相手の気配とかは、まるで感じられなかった。
ジャド「向こうも、こちらの動きに気が付いて警戒しているみたいだな。しばらくは睨み合いになりそうだ」
ロプ 「なあ、いつも思うんだけれど、よく敵が見えないのにそんなことが分かるな」
ジャド「うーん、よくはわからないんだが、なんとなくそんな感じがするんだよ。ぼんやりとしてはっきりはしないんだけれどな」
そんなものなのか。まあ、それでいつも助かっているのだから、別に気にするものでもないのかもしれないか。
どれくらいの間、そうしていたのか、ニイナとミリアナが不安そうにし出した。
あー、彼女達にはこういう緊張感のあるやり取りは、まだきついのかもしれないな。
多分今回は襲いかかって来る方を選ぶだろうな。ジャドみたいなやつばかりのパーティーなら、多分逃げ出していたはずだ。
ジャド「来るぞ」
ポツリと呟く。
僕はやっぱりかと思って、周囲の警戒を強めた。
相変わらず、見える範囲に異常は感じられないが、目の前に現れたら即動けるように、切り札の準備をしておこう。長い呪文は唱える必要はないものの、それでも省略された呪文でも、唱えている間に接近される可能性が高いので、投げるだけの切り札は、こういう時には心強い。
ジャド「ニイナ!」
左後方に微かな草の揺れる音を聞いた。僕やジャドは狙わないで、初心者のニイナを狙ってきやがった!
僕は振り向きざまにキマイラを確認し、切り札を投げ付けつつ詠唱を始めた。
ロプ 「飛沫よ凍れ、フリーズブリッド」
キマイラの爪が、ニイナの腕を掠めるのがわかったが、致命傷ではなさそうだ。
驚いて反射的に動いたのと、キマイラが危険を察知して攻撃が浅かったのが、致命傷にならずに済んだと思われる。そのキマイラは、僕から飛んだ切り札を避けようと後ろに飛んでいたのだけれど、誘導された切り札の攻撃を完全には避けられずに前足に受けた。
つまりは体に当たるのは避けたということでもある。
ガアアァァ
キマイラの左前足は、根元から吹き飛んで消滅し、さらに切り札の後から飛ばした魔法も、キマイラに命中していた。
ミア 「ヒール」
怪我をしたニイナを、後ろでミリアナが癒しているのが分かる。
その間に前に出たジャドがキマイラに接近戦を挑んでいた。ジャドが前衛として敵と対峙したのなら、よほどでない限りは今度の依頼も、何とかなるだろう。
ロプ 「荒れ狂う風よここに、ウィンドカッター」
切り札と、氷の礫を受けてもまだ倒れない相手に、僕も出し惜しみはしないで追撃を放った。
今度はジャドが前にいる為に、威力は抑えた風の攻撃だ。
魔法の数の拡大もしない単発だったので、蜂の時みたいな暴走した感じのものではなく、狙い通りの攻撃に落ち着いていて、これならジャドの邪魔をしていないだろう。
ハア!
僕の魔法とジャドの攻撃が当たり、さらにキマイラの動きが鈍る。
ジャド「ニイナ、背後には回るな、行くなら横だ!」
ニナ 「はい!」
回復したニイナがキマイラを挟み撃ちにしようと背後に回ろうとしたらしいのだが、それをジャドが止める。キマイラの尻尾は、独立して動く蛇になっていて、下手に背後に回ろうものなら、毒を受ける可能性が高かった為の忠告だった。
ジャドに支援はもう必要が無いなそう判断した僕は、ニイナがやられないようにそちらへと移動し、尻尾の対処をすることにした。
ロプ 「凍てつく刃よ、アイスソード」
ニイナを警戒して威嚇のように動いた尻尾をめがけて、氷の刃が攻撃を仕掛ける。どうやらダメージが深くて、僕にまで注意を払ってはいなかったようで、魔法が尻尾を根元から切断することに成功した。
グガアアァァアァ
おそらくキマイラも悟ったのだろう、己の死をまじかに感じて無茶苦茶に暴れだした。
その予測できない無秩序に振るわれた右の前足の攻撃を何とかジャドは受け止めたようだが、力負けしたようで吹き飛ばされたのを確認。とっさにニイナが危ないと判断して、連れ戻そうと動いた。
ロプ 「ニイナ、一旦下がれ!」
キマイラも目の前のジャドが消えたことで、もう一人前に出ていたニイナへと襲い掛かろうとしていた。
ニイナがワンテンポ遅れた動きで、後方へと下がろうとしていたが、その反応は少しばかり遅いように思えた。何とか肩を掴んで引き寄せようとしたのだが、キマイラの攻撃がそこへ襲い掛かって来た・・・・・・
ミア 「ヒール」
温かい気配と共に聞こえて来た声に、僕は背中に冷たい土の感覚を覚えた。なんだか、体中が痛い。
ジャド「気が付いたか?」
ロプ 「ジャドか、僕は気を失っていたのか?」
ジャド「ああ、ナイス判断だった。おかげでニイナも死なずに済んだよ」
ロプ 「そうか」
とりあえず緊張を解いた。
死なずに済んだ、つまり怪我はしたようだな。ジャドのように動けていたら、せめてニイナに怪我が無いように動けたのかもしれないのにな~
ちょっと悔しく、それと同時に死なせないで済んだことに安堵感を覚える。
ロプ 「みんな無事で、よかった・・・・・・」
ニナ 「迷惑をかけてごめんなさい」
先に回復されたと思われるニイナが、僕の元までやって来てそう謝った。
ロプ 「いや、あれは仕方ない。お前はがんばっていたと思うぞ」
ジャド「だな、よく動けていた。ちょっと反応が遅かったのは、単純に経験不足だろうから、これからうまくやれるようになるさ」
ロプ 「そうだな。誰が悪いとか言い出すなら、今回のはジャドだろう?」
ミア 「え、何故ですか?」
疑問に思ったのか、そう聞いて来る。
ロプ 「いやこのパーティーで一番の実力者が、あっさり吹っ飛ばされてどうするんだよって話だよ。まあ、よくガードを間に合わせたって褒めたい気持ちもあるけれどな」
ジャド「確かにそうだな。あそこでうまく攻撃を受け流せていたら、こうはならなかったな」
ロプ 「だろう? まあ、僕も反省する部分はあったけれどな。ニイナの経験にもなるからって、尻尾だけ切り落としていたけれど、そんなことしている余裕なんかなかったよ。ついでに後ろ足でも斬り飛ばしていたら、被害はなかったかもしれない」
ジャド「確かにな」
ロプ 「まあ総合すれば、ミリアナ以外はそれぞれにミスをしていた感じだろうな」
ミア「え、そんなこと言ったら、私は何もできなかっただけなので・・・・・・申し訳ないです・・・・・・」
あー、落ち込ませてしまったか。まずったかな?
ロプ 「ミリアナ、ちょっとこれを使って、攻撃魔法を使ってみてくれないか?」
僕は、話題を変える為っていうのと、戦力を増やす意味で、指輪の魔道具を彼女に渡す。
ミア 「あ、はい、分かりました」
受け取ったミリアナは、とりあえず指輪を装備して、目標となる物を探す。
ロプ 「ジャド、討伐部位は回収したのか? したのなら目標は、キマイラの屍骸でいいと思うが」
ジャド「ああ、回復の間にやっておいたから大丈夫だぞ」
ミア 「分かりました、ではやります。神罰!」
キメラの屍骸に向って攻撃魔法が放たれた。
バシュ
いつも使っていた時よりも、威力は増している感じがあるな。魔法使いとは系統が違うからか、おそらく三つ目の魔石の効果を使っても、僕のような高い効果は出ていないみたいだけれど。僕が三つ目の方まで使うと、周りまで被害が広がるからな~
ロプ 「ジャド、ミリアナにも指輪を渡した方がいいと思うか? 初心者のうちは修行にならないと思って、渡さない方がいいかと思っていたんだが」
ジャド「これって、任意で指輪を使うかどうか選べるのか?」
ロプ 「あー、説明不足だった! ミリアナ、ここに魔石があるのが分かるか? イメージでいいから、この魔石にダメージを与える感じで魔法を使って、その後で目標の屍骸にもう一度魔法を飛ばすようなイメージをやってみてくれ」
ミア 「え、あっはい。やってみますね。神罰」
ズガンッ
ミリアナが魔法を使った後、雷でも落ちたかのような音がして、煙が周りに立ち込めた。ちょっと焦げ臭い・・・・・・
ロプ 「うわー、想像以上のダメージだな・・・・・・普通に怖いぞ・・・・・・」
ニナ 「ビックリした~」
ジャド「おいおい、これはすさまじいな・・・・・・」
煙が晴れた後の屍骸を見て呟いた。
能力に劣った人間が使ったものと、普通に使える者とでは、ここまで差があるのかって感じの威力だった。
ジャド「こいつはすげえな。雲泥の差じゃないか?」
ロプ 「おい、指輪を返してくれ・・・・・・」
ミア 「あ、はい・・・・・・」
僕は思わず怖くなって、指輪を回収してしまったよ。これ、僕の切り札並みの威力を持っているし・・・・・・
ロプ 「魔道具を作って渡すのは、やめた方がいいよな?」
ジャド「正直に言おう、この威力は凄く惜しい! だが確かにまだ早い気はするな」
ミア 「あの、私もちょっとこれは怖いと思いました」
ジャド「まあ、いざって時には借りて使えるって思っておけばいいか」
そう言うのだが、さすがに怖過ぎて、誰にも貸したくないと思ったよ。
ニナ 「ミリアナ、いいな~」
ミア 「いえ、お借りしただけだから・・・・・・」
ジャド「さて、討伐もすんで回復も終わったことだし、そろそろ撤収するぞ~」
二人がなにやら言い合っているようだったけれど、そう切り出していた。
ロプ 「ああ、わかった」
ミア 「はい」
ニナ 「了解~」
僕らを見回して頷いた後、ジャドは先頭に立って森を進んで行った。
町に到着した後、ギルドで報酬をもらい分配してみると、さすがに今回は大物だけあって、いつもより少し金額が高かった。
ロプ 「これで負傷しなかったら、それなりにいい仕事だったかもな」
ジャド「そうだな、今回は少し油断もあったと思っておこう」
僕らはそう言い合いながらも、無事に帰って来られたと小さな打ち上げをして、食堂で騒いだ。
酔っ払う程は騒がなかったので、普通に家まで帰ってきた後切り札の補充と、腕輪がどれ程の魔法の力を溜め込んでいるのかを調べる為に、魔石の作製をしてみる。
今回の冒険ではずっと自身の精神力は温存していたので、正確なところはわからなかったのだけれど、作製できた魔石の数は十五個にもなった。
いい感じじゃないかな! 僕は切り札を七個作って今日は寝ることにした。